五十一話: 選択する時
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れて、ベッドの端に座る。俺も体を起き上がらせて黒歌と見つめ合う。色々と言いたいことはあるけど言葉が上手く出て来ない。
「私はルドガーが居なくなって凄く悲しくて毎日泣いてたにゃ。どうして、私がこんなに悲しい想いをしないといけなんだってあなたを恨んだりもした」
「……ごめん」
「でも―――一番辛いのはあなただった」
そう言って黒歌は俺を胸に抱きかかえる。その事に一瞬恥ずかしくなってしまうがすぐに記憶に残ってもいない母親に抱かれているみたいな気分になって体の力を抜いてその身を黒歌にゆだねる。
「でも、あなたはどんなに辛いことがあってもそれを隠して最後まで進み続けた」
「ただの……自己満足だよ」
「あなたは、どんなに悲しいことがあっても決して―――涙を流さなかったにゃ」
子どもを撫でる様に優しく俺の髪を黒歌が撫でてくれる。甘い香りが俺の鼻をくすぐり不思議な気分になる。誰かにこうして甘える事なんて兄さん以外にはしなかった。黒歌といる時だって、黒歌が甘えてくるばかりで俺は甘えたりなんてしなかった。
「私は強いあなたしか知らなかったにゃ。私を守ってくれる強いあなたが弱かった時なんて知らなかった。受け入れて貰うだけであなたを受け入れていなかった」
「……………」
「でも……これからは弱いあなたもちゃんと受け入れるにゃ。喜びも、悲しみも、怒りも、憎しみも、全部受け止めるから。だから―――私の前でぐらい泣いて欲しいにゃ」
そう言って、先程より強く、だけど優しく抱きしめられる。エルと出会ってから、俺は泣かなかった。強い人は弱い人の前では泣いたらいけないから泣かなかった。弱い人が安心して泣けるように強くなった俺は泣かなかった。ミラを失った時も、兄さんを殺した時も、エルと別れる時も俺は泣かなかった。なのに―――どうして涙が止まらないんだ。
「我慢しなくていいにゃ。声を上げて泣いて。弱いあなたは―――私が守るから」
その言葉で俺は限界になった。声にならない声を張り上げて泣き叫んだ。こんなに泣くのは兄さんと暮らし始めてからもなかったかもしれない。ボンヤリと銀髪の綺麗な女性が脳裏に浮かぶがそれが誰かもわからないままに黒歌の胸の中で泣き続ける。
そんな俺の背中を黒歌が優しく撫でてくれる。その優しさにただ甘えて俺は声が枯れるまで泣き叫び続けた。ああ……この人に愛して貰えて―――俺は本当によかった。
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