五十話:ただ一人君の為なら
[4/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
してその槍からエルが力なく崩れ落ちて行く。その様子にルドガーは声にならない悲鳴を上げるがまだエルは生きていた。
『なんという……醜悪な―――』
『人間の勝利だ!』
『ぐあああっ!』
クロノスに止めを刺すようにビズリーは槍をさらに深くクロノスの胸に刺し込み、捻りクロノスを苦しめる。そして、自らの勝利の宣言をする。クロノスが敗れたことでカナンの地にかけられていた罠が解除される。だが、ルドガーにはそんなことなどどうでもいいらしく、真っ直ぐにエルの元に走って行き、その小さな体を抱き起す。
『ルドガー……どうして……ここに?』
『約束したから……な』
『……ルドガー』
自分が約束を破ったにもかかわらず約束を守りに来てくれたルドガーにエルは嬉し涙を流す。ルドガーはそんなエルの手を優しく握ってやる。小猫はその様子に感動すると同時にエルをこんなにも傷つけたビズリーに怒りを向ける。そして、それはガイアスも同じだったらしい。
『こんなことがお前の策か。器が知れるぞ、ビズリー』
『クロノスを倒すには、これしかなかった。だがこの悲劇は無駄ではない。おかげで精霊から意思を奪い去り、人間だけの世界を築くことが出来るのだから』
ガイアスの言葉にも一切悪びれることなくビズリーはそう言い放つ。人間だけの世界など大精霊オリジンが叶えるわけないとジュードが反発するがビズリーは問題ないと続ける。
『オリジンの意思など関係ない。このオリジンの審判自体が、始祖クルスニクと精霊オリジンが契約した一個の精霊術。条件が満たされれば、オリジンはその力を発動せざるを得ないのだ』
ビズリーの言う通り、この契約はいかなる願いであろうと叶えることが出来るのだ。願うなら世界の消滅すら可能だろう。そもそも、この世界を創り出したのもオリジンという存在なのだから。そんな時、エルが時歪の因子化の痛みによりうめき声を上げる。
『あきらめろ。その娘はもう助からん。オリジンに願えば、話は別だがな』
『ダメ……分史世界……消さないと……』
ビズリーがルドガーにそう話すと、今にも自分が消えてしまいそうだというのにも関わらずエルは懸命にルドガーに分史世界の消去を願う。子供ながらに事の重大さを分かっているのもあるが全ては大切なルドガーに消えて欲しくないが為である。ビズリーはエルの言葉を肯定し、願いを叶えられるのはたった一人の一つの願いだけだと言う。
『助ける方法があるとすれば、その娘より先にルドガーか私が時歪の因子化することか。そうすれば時歪の因子は上限値に達し、進行中の時歪の因子化は解除されるだろう』
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ