五十話:ただ一人君の為なら
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えていこうと思う。そして、心の整理が出来たところでルドガーはずっと待っていたアイボーへと向き直る。小さなアイボーはその体を精一杯に動かして涙ながらにルドガーに語り掛ける。
『エルも約束する! もうウソつかないし、トマトだって食べる!』
『ああ……』
『ルドガーが助けてくれたこと……スープの味も、ぜったいっ、忘れないっ!』
溢れ出る涙が止められずにエルは目をこすりながらも必死にルドガーに感謝の想いを伝えていく。そんな様子にゼノヴィアの目が思わず潤んでしまう。
『本当……本当だから―――』
ルドガーはそんな言葉に頷きながら、骸殻の段階を下げてエルに自分の顔が見えるようにする。そして優しく―――笑いかける。そんな笑顔にエルも泣きたいのを堪えて笑顔でルドガーに笑いかける。
『約束!』
『ああ、約束だ』
エルとルドガーは約束を果たした。そして、二人はまた一つの約束を結んだ。この約束もまた、必ず果たされることになるだろう。ルドガーは満足げに頷き、最後にエルにあの歌を受け継ぐ。ルドガーの口から紡がれる歌は証の歌。
かつて兄から受け継いだ自分も大好きな歌をただ一人、エルの為に歌い続ける。そこにどんな想いが込められているのかはエルとルドガーにしか分からない。だが、エルを想っている事だけは確かだろう。そんな優しげな歌を聞きながら黒歌達は目に涙を浮かべながらもルドガーを見つめ続ける。
『さようなら、人と精霊たち。また会う日が、今日より少しだけいい日でありますように』
オリジンとクロノスは最後にそう言い残して審判の門の中へと消えていく。そして、ミラとミュゼもこれ以上、人間界に止まっておくことが出来ずに精霊界へと帰っていく。しかし、誰一人として二人を振り返ることはしない。何故なら、今はルドガーの最後を見届けなくてはならないからだ。
不意にルドガーの頭を風が撫でる。自分の頭を優しく撫でて行った風と共にルドガーには誰かの声が聞こえたような気がした。
(よくがんばったな、ルドガー)
その言葉は、自分の憧れの存在だったような気がしてルドガーは嬉しくなる。兄は弟を守り抜き、弟は少女を守り抜いた。そして、ルドガーは最後の最後に何よりも大切な者―――エルの顔を目に焼き付ける。最後の歯車が刻まれた瞬間、強烈な光が審判の門より放たれルドガーの体は消滅していく。消え行く最中、最後に彼の目に映ったのは―――少女の笑顔だった。
――世界ひとつと、ただ一人の少女を守り抜いた英雄の生涯はここで幕を閉じた――
……はずだった。
『………どこだここ?』
彼は黒歌達の世界でオリジンの計らいにより再び新たな生を歩むことになったのだった。なぜか、
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