五十話:ただ一人君の為なら
[2/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
うに俯いているエルであった。
ビズリーは骸殻を使う事もなくクロノスと互角以上の勝負を繰り広げていた。その様子に思わず、イッセーは凄え、と感嘆の言葉を口にしてしまう。拳一つで戦うビズリーの姿はある意味では肉弾戦の境地であった。
『クルスニクの鍵……切り札のつもりか?』
『さてな』
クロノスはルドガーの姿を見るとまだ鍵だと信じ込んでいるために切り札かと問う。それに対してビズリーは特に表情を変えることもなく含みの持たせた言い方で答える。その間に、俯いていたエルがゆっくりと顔を上げてルドガー達の方を見る。
その顔の右半分から首筋にかけては父親と同じように時歪の因子化が広がって、どす黒く染まり、エメラルド色の目は血の様な赤色になっていた。その様子にルドガーは言葉を失いエルを見つめる事しか出来ない。
『ルド―――!』
『なにっ!?』
エルがルドガーと叫ぼうとしたところにクロノスがビズリーとエルを纏めて結界術で封じ込めてしまう。ビズリーも突然の事にエルを連れて逃げることもできずに悔しそうに消えていく。
『二人がかりなら勝てると算段したのだろうが、残念だったな』
『エルに何をした!』
『異空間に閉じ込めた。あの娘には時歪の因子化して貰わねばならないのでな』
クロノスのその非情な手段にジュードが怒りをあらわにして叫ぶ。黒歌達もクロノスに対して怒りをあらわにするが、クロノスはそんなジュードの言葉に対して憎悪に満ちた目で睨みつけながら叫び返す。
『オリジンに、己が魂が生んだ瘴気の始末をさせておいて、どの口でほざく!』
その言葉に思わず、ジュードは言い淀んでしまう。
その間にもクロノスは言葉を続けていく。
『オリジンは、人間に進化の猶予を与え、その身を焼きながら魂の浄化を続けて来た……だが! 貴様らは自らの不浄を顧みず、魂の昇華を思いもせぬ!』
クロノスの言葉はすべて真実であった。オリジンがその身を焼いている間にも人間は愚かな行為を繰り返し続けて来た。その事実にルドガーは何も言えずにクロノスを見つめることしか出来ない。
『もうたくさんだ! 我は浄化を止め、オリジンを救い出す!』
クロノスの言葉には唯一の友であるオリジンを想う故の怒りが込められていた。そんなクロノスに対してミラがそれはオリジンの願いかと問うがクロノスは貴様には関係ないとしか返さない。さらに、ミラは瘴気が世界に溢れ出すと言うが、クロノスはそれこそが自分の望みだと答える。
『人間は、瘴気で魂を侵食され、マナを生むだけの“物体”となるだろう。しかる後、我が力で瘴気を封じ込めば、世界は精霊だけのものとなる』
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ