悪態カモフラージュ
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沖田は気が付いたら見覚えのない部屋の中にいた。
「……どこだ、ここ」
「こっちが聞きてェよ」
独り言のつもりで呟いた言葉に返事が返ってきた。驚いて振り返ると土方がいつもの仏頂面で煙草を吹かしていた。
「うげぇ。アンタとふたりきりとか勘弁しろィ」
「こっちの台詞だ」
「……で、見たところ出口とかもなさそうですけど、どうしやしょう」
挨拶のように悪態を吐き合ってから辺りを見回す。すると早速沖田が何かを見つけたのか「あ」と声を上げた。
「貼り紙でさァ。何か書いてあるんじゃねェですか」
「自分で読もうって気はねーのか」
「面倒臭ェ。アンタ見てきなせェよ」
「ったく……」
渋々と言った様子で土方が立ち上がる。そして沖田が指差した貼り紙に近付いて書いてある文字に目を通すなり心底嫌そうな顔をした。
「何でした? 出られそうですかィ?」
「……無理だな」
「?」
土方は貼り紙を剥がして溜め息を吐きながらとぼとぼと戻ってくると沖田の前にどっかりと座り込んでしまった。
「……見てみろ」
沖田の前に貼り紙が差し出される。そこには印刷された文字で「ここから出たければどちらかが愛を叫べ」と書いてあった。
「あー……」
「な、無理だろ」
そう言って貼り紙であったそれをビリビリと破いてただのゴミにしてしまう。
「でもその貼り紙以外に何のヒントもなさそうですしねェ。アンタ叫んでみて下せェよ」
「誰が叫ぶか。つーかまたお前の質の悪ィ悪戯じゃねーだろうな」
「流石に出入り口のねェ部屋は作れねェよ」
沖田は面倒臭そうに言うなり床に寝転んだ。そして暫し考え込む。
(土方さんに任せたら一生出られねェなコレ)
という事は沖田が折れるしかない。だが一方的に愛を叫ぶのなんざ絶対に御免被る。何とかして土方にも何らかの形で愛を叫ばせたい。
そしてふと考えつく。やってみる価値はあると判断してすぐさま実行に移した。
ムクッと起き上がって土方と向き合うように座る。
「……?」
不思議そうな顔で見つめてくる土方を無視して深く息を吸い込んだ。
「どうすんだよコレ出られねェじゃねーか死ね土方コノヤロー」
「ンだとお前が死ね沖田コノヤロー」
「アンタなんかマヨラーでニコチン臭くて瞳孔開いてて天然ボケで何だかんだで可愛くて大好きでさァ! 絶対俺の方がアンタの事愛してまさァ!!」
「テメーなんか腹黒ドSで性格最悪でイケメンで大好きだコノヤロー! 俺の方が愛してるに決まってんだろ!! ……あ?」
悪口に見せ掛けて叫んでしまえば良いのだ。そうすれば短気で乗せられやすい土方はいとも簡単に食いついてくる。
沖田の予想は当たっていた。
「テメー……戻ったら覚えてろよ」
「へいへい」
何かおかしいと気付いた時には沖田の思惑通り愛を叫んでしまっていて顔を真っ赤にして悪態を吐く。
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