第6章 流されて異界
第113話 反撃
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「セ、セーフ、セーフ!」
濛々と上がる土煙の向こう側。但し、俺と正対する形になる位置に存在していた為に、おそらく一連のプレーを一番確認し易い位置に居たはずの審判役の男子生徒が、その両腕を開いてセーフのジェスチャーを行う。
しかし――
「セーフ?」
思わず、割と大きな声で問い返して仕舞う俺。これは本来ならばあり得ない行為。しかし、今回の場合は仕方がなかったであろう。
何故ならば、そんな馬鹿な話はないはずだから。少なくとも俺が見た限りでは、最初に二塁ベース上に到達したのは俺。そして、俺のグラブが差し出された先に寸分の狂いもなく送られて来た有希からのボール。
最後に、そのグラブに向かってすべり込んで来る九組の二番バッターの足に、俺的にはかなり余裕を持ったタッチを行ったはずなのですが……。
確かに超高速の物体――俺自身と有希の送球が二塁に向かって動き、其処にランナーがすべり込んで来たので、かなりの土煙が発生したのは事実ですが、視界を完全に防いで仕舞うレベル。例えば粉じん爆発が起きるようなレベルの、目が開けて居られない程度の土煙が舞って居た訳ではないのですから。
「そうだ、セーフ。オマエのタッチは空タッチで、ちゃんとランナーに届いていない」
俺の問いに対して、妙に偉そうな態度で答えを返して来る審判。ただ、その違和感のある態度や、彼の発して居る雰囲気から今の彼がウソを吐いて居る事が手に取るように分かる状態。それに、そもそも、すべり込んで来る先に有希の送球は届いて居ます。これは即ち、わざわざタッチに行かなくとも、相手が素直にグローブに向けてすべり込んで来ると言う事。
こんな馬鹿な判定が有る訳がない。
しかし――
「仕方がないわよ、武神くん。審判がセーフと言うのなら、それが覆る事はないわ」
何を言うとるんじゃ、このヌケ作が。ワレの目は一体、何処についとるんじゃ、あぁ〜。役に立たない目の玉なら、繰り抜いて丸めた銀紙でも詰めとけ、……と言い出す寸前。……と言うほど激高していた訳では有りませんが、それでも少し不穏な空気が流れ始めた瞬間、俺と審判の間に割って入る蒼髪の委員長。
彼女の口調は冷静そのもの。……と言うか、
「毎度、こんな感じなのかな?」
何となく、なのですが、どうもその冷静な中――かなり根っ子の部分に諦観にも似た感情が流れているような、そんな気がした。
俺の問い掛けが意外に冷静だったからなのか、それともまったく別の何かなのかは判りませんが、しかし、少し驚いたような表情を俺に見せる朝倉さん。
そして、
「大体、こんな感じよ」
涼宮さんが嫌われているのか、それとも別の理由に因るのかは、分からないけどね。
諦めにも似た溜め息と共に吐き出された朝倉さんの
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