首無し麒麟と鳳凰と
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誰も近づかない森の中、一つぽつんと寂しげに石碑が建てられていた。
焼け落ちた橋は既に立て直され、ゆっくりと渡る影が……三つ。
本拠地への帰還後は忙しいとの事で、秋斗が華琳に無理を言って先にこの場へと来させて貰ったのだ。
石碑の前に辿り着いたのは秋斗と猪々子と雛里であった。
「……此処か」
「うん。あたい達と徐晃隊が戦ったのは此処で間違いない」
「……はい、確かにここです」
それは小さな石碑だった。
決して豪勢に飾られることの無い、なんらそこらにある石と変わらない。
ただ、周りには色とりどりの華が植えられ、後ろには槍と剣の束が積み上げられ、決して一人では呑み切れぬ程の酒瓶が捧げられている。
そして一際大きな中型の斬馬刀が一本、剣と槍を守るように大地に突き立っている。まるで今も尚、彼らを率いていると示すかのように。
嗚呼……と雛里は嘆息を零した。今にも目から涙が溢れてしまいそう。耳を澄ませば、彼らの楽しげな声と、生き生きと笑いながら戦う猛々しい声が残響のように頭に響いた。
華々を散らしてしまわぬよう注意を払って一歩、二歩近付き、愛おしい我が子に触れると同じく、石碑を一つ撫でる。震える指で、震える身体で、彼女は石碑を優しく抱きしめた。
「……」
沈黙は優しく、哀しい。
猪々子は膝を付き、拳を包んで黙祷を捧げる。
秋斗は立ったままで、掌を合わせて祈りを捧げた。
震える彼女から次第に、小さな嗚咽が漏れ始める。後悔しても変わらないが、それでも哀しみは止まらない。
あの時戦った彼らは此処に居る。そして……生き残った者達に思われて、大地に華を咲かせていた。
幾分、目を開いた彼は雛里の肩を叩いた。
グイ、と涙を拭った雛里は秋斗に抱きつく。何も言わずに頭を撫でる彼に縋りついた。
「強かったぜ、徐晃隊の最精鋭」
そんな雛里に、猪々子が告げる。
戦ったモノにしかその強さは分からない。だから、と。
「い、いいしぇしゃん……」
うるうると見上げる瞳に、ニッと歯を見せて彼女は笑う。
「あたいはこいつらと戦えた事を誇りに思う。
敵だった。殺し合った。けど……力と力、魂と魂、想いと想い……ぜぇんぶを賭けて全力で、ホントの全てを輝かせて戦えたんだ。ガキの喧嘩みたいでさ、ほんと……楽しかったなぁ」
彼女も一歩、石碑に近付いて撫でやった。
彼らの勝ちで、彼女の負け。
生きている猪々子よりも、死んだ彼らの方が勝者……彼女にはそう思えた。
ただ、勝ち負けよりも大切なナニカが其処にあった。生き死によりも大切なモノを輝かせた。それだけで、猪々子は満足だった。
不意に、彼は腰にぶら下げていた酒瓶の詮を開ける。
懐から取り出すのは杯
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