首無し麒麟と鳳凰と
[6/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
歪なカタチであれども、純粋で真っ直ぐな副隊長を得た事で不安は無く、並び立ってくれる少女と嘗ての身体も居る。
これからこの世界で声を上げるのは黒麒麟のマガイモノ達。
本物の徐晃隊は、ソレを内に秘めたままで決して上げない。
それがどれだけ哀しい事か、分かっていても彼は選んだ。
それがどれだけ苦しくとも、嘗て肩を並べた男達は選んだ。
今は……今だけはそれでいい、と。
――戻ってくると信じてるから。私も彼らもそれでいい。今は、まだ。
同じ温もりにまた顔を埋めて、雛里は目を閉じた。
優しいその場所は彼女だけの居場所で、微睡みに包まれながら先を思い描く。
――次の敵は西涼の馬一族。秋斗さんを戻せる神医は……其処に居る。
†
ケホ……と咳込んだ女が一人。
寝台の上で緩慢に頭を起こした彼女は、茶髪のポニーテールを揺らして周りを見渡した。
心配そうに見つめる彼女の娘がいた。その隣では、白い外套に赤い髪の男が難しい顔で見つめている。
「体調はどうだ?」
「ああ、悪くないねぇ。このまま馬に乗って突っ走りたいくらいだ」
「……大人しく寝てろよ」
開口一番に無茶苦茶を言う母親に呆れを浮かべた娘。姓を馬、名を超、字を孟起……真名は翠と言った。
「ふふ、あんたみたいな小娘に指図される覚えは無いね。それより良かったのかい、華佗? あのクソ悪龍を救いに行かなくて」
睨みつける視線と一言だけで気圧わせた彼女は、言い換えそうとした翠を気にせず男に話し掛けた。
「……一年の治療期間は終わりだ。あんたは山を越えた。半年ほどじっとしてたら完全に回復するだろう。絶対に怒ったり、感情を高ぶらせたりするなよ?」
眉を寄せた華佗は、悲哀に暮れる瞳のままで事実だけを告げる。
泣き叫びそうな程に目を潤ませた翠は、その言葉に彼の手をぎゅっと握りしめた。
「……ありがと……本当に……この恩は一生掛けて返させてくれ」
「よしてくれ。俺は医者だ。目の前の救える命を救った。ただ……それだけなんだよ」
「おれも礼を言う。本当に世話になった。褒美は……っても旅に必要な資金しかいらないんだったね」
どれだけの想いが秘められているか、それは男にしか分からない。
目の前の命を救わずにいられない彼は、他の全てを救わずに彼女を救った。他の大地に重病人が居ると分かっていても、華佗は今救える命を優先した。
袁家の且授と、荊州の悪龍。
名のある為政者である西涼太守の懐に居た彼がそれを知らぬはずも無く、救いたいと願っていたのを知らぬ翠でも無い。
だから、彼女は感謝を告げ、彼はそれを受け取れなかった。
「天命かね
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ