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河の鬼女
第四章
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 角が生えた禍々しい、耳まで裂けた口に牙が幾重にも連なる鬼だった。服は人のものであったが姿は鬼だった。
 その鬼を見てだ、田村麻呂は咄嗟に。
 足を思い切り前に出して女の腹を蹴った、そして。
 女が態勢を崩したところで即座に、赤子の重さに耐えつつだった、前に突進してだった。
 さらに体当たりを浴びせ女が倒れたところでその胸を渾身の力で踏み潰してだった。それで肋の骨もその中の肺や心の臓もだ。
 踏み潰して倒してだ、女が口から血をごぼごぼと吹き出して苦しみもがきつつこと切れるのを見てからだ、兵達の方に顔を向けて言った。
「出て来るのじゃ」
「は、はい」
「それでは」
 一部始終を見ていた兵達が彼の言葉に応えて出て来た、そして。
 彼のところに来て女を見てだ、こう言った。
「これを見よ」
「女、いや」
「鬼ですな」
 見れば角が生えていてだ、歯は全て牙になって幾重にも連なりだ。
 目は釣り上がり赤く禍々しい。手の爪は鋭く大きい。
 その異様な姿を見てだ、彼等も察したのだ。
「鬼が女に化けておったのですか」
「鬼女が」
「まさかと思っていましたが」
「そうだったのですか」
「うむ、そしてじゃ」
 田村麻呂は兵達にさらにだった。
 その腕に持っている赤子を見せた、するとそれは。
 鉄だ、鉄の塊だった。赤子と思われていたものはそれだった。
 その鉄の塊を見せてだ、こうも言うのだった。
「どう思うか」
「はい、これは」
「この鬼が妖しげな力で、です」
「赤子に見せておったのでしょう」
「おそらくじゃが」
 田村麻呂は考える顔で述べた。
「この赤子を抱かせて動けなくさせてからな」
「鬼の本性を出して、ですか」
「襲い掛かりそして貪り喰っていた」
「そうだったのですか」
「その様じゃな」
 こう語るのだった。
「わしも危うかった、川に映った真の姿を見なければな」
 その時はというのだ。
「よく気付いたものじゃ」
「水面に映るのはですか」
「真の姿ですか」
「それを見られたからこそ」
「よかったのですな」
「うむ、全くじゃ」
 その川の水面を見つつの言葉だ。
「しかも月で明るかったからな」
「若し月がなければ」
「その時は坂上様でもですか」
「危うかったですか」
「そうなっておった、しかしこれでな」
 何はともあれという口調でまた言うのだった。
「鴨川の鬼はな」
「これで、ですな」
「何とかですな」
「退治しましたな」
「その様じゃな」
 そのこと切れた鬼の骸を見ながらの言葉だった、実際にこれ以降鴨川に鬼が出たという話はなく夜も人が行き来出来る様になった。
 この話は京都のある寺に残っている話だ、坂上田村麻呂の逸話の一つだが広くは広まっていない様である。そのこと
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