第一章
[1/2]
[1]次 最後 [2]次話
レプリカ
脇坂佳史はある日同居している祖母にこんなことを言われた。
「あんたやっさんそっくりになってきたね」
「やっさん?」
佳史はそう聞いてもそのスギさんが誰なのかさっぱりわからなかった、それで首を傾げさせてそのうえで祖母い問い返した。
「それ誰?」
「ああ、あんたは知らないのね」
「だから誰?やっさんって」
「横山やすしさんよ」
「確かその人って」
「こう言ったらわかるのね、あんたも」
祖母は随分若い調子で孫に言った。
「漫才師だった」
「そういえば祖母ちゃんって」
「漫才好きだから」
それで、というのだ。
「だからよ」
「それでだね」
「そう、千葉にいるけれど」
それでもだというのだ。
「若い時に大阪に行った時にやっさんの漫才を観て」
「それでなんだ」
「お祖母ちゃんはまだ五十五よ」
もう五十五ではなく、だ。
「あんたのお母さん、紗世ちゃん産んだのが二十一」
「滅茶苦茶早いね」
「それで紗世ちゃんがあんたを産んだのは二十」
さらに早い。
「それであんたはもう十四」
「祖母ちゃんは五十五」
「まだまだ若いわよ」
「それで祖母ちゃんの頃が」
「まだやっさんが現役だったのよ」
「そうだったんだ」
「お祖父ちゃんもやっさんに似てるでしょ」
つまり自分の夫もだというのだ。
「痩せていて角刈りで眼鏡していて」
「僕はスポーツ刈りだけれど」
しかし痩せていて眼鏡をかけている、その容姿がなのだ。
「そのままなんだ」
「やっさんよ」
「ううん、あの人なんだ」
「漫才は天才だったわ」
このことは間違いないとだ、祖母は太鼓判を押した。
「あんたも一回漫才やってみたら?」
「相方見付けて?」
「相方なくても。一人でも」
とにかくというのだ。
「漫才やってみたら?」
「それで面白かったら」
「よしもとか松竹、ナベプロとかに入って」
そうしたお笑いに強い事務所に、というのだ。
「やっさんみたいになるのよ」
「お酒飲んでボートやってタクシーの運転手さん殴って飲酒運転で事故起こしてさらに飲んで?」
「何でそうしたことは知ってるのよ」
横山やすしの行いをだ、確かに漫才は天才だったがその生活は破天荒で最後の無頼派芸人と言っていい人物だった。
「確かに行いはね」
「褒められた人じゃなかったんだね」
「すぐに手が出るけれど実は小心者だったっていうし」
「だからすぐに殴ったりしたんだ」
「実際は喧嘩弱かったらしいわ」
そうした話も残っている。
「まあそうしたことは置いておいて」
「漫才やってみて」
「横山やっさんみたいにね」
いい意味で、と言う祖母だった。
「売れっ子になって儲けたら?」
[1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ