第十話:闇夜切り裂く光の剣閃
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しかし、それではダメだと断言する。
それら全ては、ユメの抱える闇から目を背けて逃げる事を意味する。一時的ならばそれでもいいだろう。だが、長い時間を生きていく内に、必ず、そのトラウマは蘇る。
結局の所、トラウマは克服しない限り幾ら逃げても心を蝕み続けるのだ。
それではダメだ。苦しみ続けるユメを見たくはないのだから。
しかしだからこそ、オレは踏み込むことはできない。
ユメの過去はユメだけのものなのだ。
「私ね、その時から暗い所とか、離れていく背中とかが、怖いんだ。
ごめんね、今日のクエスト中で、なんかレンの姿がお父さんに被っちゃって……」
俯くユメの表情は、オレからは見えない。けれど泣いているのは理解できた。
ユメの抱える闇は分かった。さて、ならオレにできる事は一つしかない。
「……オレは、ユメのトラウマに同情することはできても、共感することはできない。だから、残念だがお前に寄り添って支えてやることもできない」
暗闇を恐ろしいと感じないオレに、ユメの恐怖は理解できない。去っていく姿に不安を覚えるのは少しだけ理解できなくもないが、オレとユメの感じ方はまた別のものだろう。
だから、『彼女の気持ちになって』なんて事はできない。
けど、それでも。
「それでも、それを背負ってやる事はできる」
一緒に歩くことはできなくても、道案内くらいはしてやれる。
トラウマを克服する為の手伝いならば、オレは幾らでもしよう。
「だから、ゆっくりでいい。立ち上がれ。立って、その恐怖と正面から戦え」
そう言って、立ち上がる。
どうやら敵の我慢は限界のようだ。
禍々しい紅に彩られた黒鎌によって、締め切っていた扉が斬り裂かれた。どうもこのマップは特殊な仕掛けが多いようだ。
安全だった圏内が、一瞬にして圏外のそれになる。張り詰めた緊張感。息が詰まるような圧迫感。正に『死』と隣り合わせの感覚。
「随分と待たせてしまったな。今からその不気味な図体を真っ二つにしてやる」
部屋を覗き込んでくる朱の眼光を睨み上げる。既に退路は塞がれたが、コイツを倒せばいいだけだ。なんら問題はない。
† †
目の前の光景に、ユメは息を呑んだ。
同じだ。
月明かりを背に、自分から去っていく父の背中。
月明かりを背に、自分から去っていく彼の背中。
体が震える。手足に力が入らない。噛み合わなくなった歯は無様にガチガチと鳴っている。
「ぁ…やだ……嫌だ…!」
真っ暗な部屋に差し込んでくる光も、大きな背中も、全部同じ。
靴を履いて、玄関の鍵を開けた父は、ふと足を止めて、こちらを振り向くのだ。
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