第二章
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「律儀にはな」
「ですな、まことに律儀です」
「天下一の律儀様です」
こう言うのだった、だがある時だ。家光は重臣の一人から思わぬことを聞いた。その話を聞いてすぐにだった。
「それは嘘であろう」
「そう思われますか」
「有り得ぬ」
こうその重臣に言うのだった。
「とてもな」
「しかしです」
「嘘ではないというのか」
「はい、それがしも最初は有り得ぬと思いました」
重臣にしてもだったのだ、このことについては。
「まさか大御所に」
「父上は衆道はするがな」
「おなごの方はですな」
「母上だけじゃ」
このことを言うのだった、家光にしても。
「大奥も母上だけでな」
「後は奥女中達だけでしたな」
「そうじゃ、側室なぞおらなかった」
「しかしです」
「しかしか」
「はい、その奥女中に静殿という方がおられまして」
「静とな」
その名を聞いてもだ、家光は眉を顰めさせるばかりだった。
そしてだ、こう言ったのだった。
「知らぬな」
「大奥にいた女中の一人だったのです」
「その静殿とか」
「はい、大御所が」
何があったのかは言うまでもなかった、家光にしても重臣にしてもこのことについては言葉の中に含んでやり取りをしたのだ。
「そうしてです」
「それでというのか」
「はい、お一人の方が」
「してそれは誰じゃ」
家光は重臣にいぶかしむ声で問うた。
「父上と静殿の間に生まれたのは。男か女か」
「男の方であります」
重臣は家光に問われるまま答えた。
「そしておられる家もわかっております」
「そこまでわかっておるのか」
「保科家であります」
「保科、武田の家臣だった家ではないか」
「はい、あの家に養子としておられます」
「左様か」
「やがて保科家を継がれるとのことです」
重臣は家光にここまで話した。
そしてだ、主に対してあらためて言うのだった。
「それでなのですが」
「余がどうするか、か」
「どうされますか」
重臣は家光のその目を見つつ問うた。
「この件は」
「会おう」
家光はその重臣の問いに対して即答で返した。
「是非な」
「そうされますか」
「うむ、そして詳細を知りたい」
このことの、というのだ。
「是非な」
「そうされますか」
「まさか父上にその様なことがあるとは思わなかった」
とても、という口調での言葉だった。
「側室もおられぬ父上が」
「確かに、それがしもです」
「御主も思わなかったな」
「全くです、しかし」
「それでもじゃな」
「上様が会われるのならば」
「うむ、すぐに呼んでくれ」
その者をというのだ。
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