狼
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げた
「……」
「やれやれ……俺にエナジーを枯渇させる程の狙撃手が、フェイトと同じぐらいの少女だったとはな……」
蜂蜜色の髪に、琥珀色の綺麗な瞳。整った顔立ちは恐らく一般的な視点でも可愛いと評されて相違ないものなのだが、浮浪児のように栄養を取れていないのか、心が痛むほど身体がやつれていた。喉元に大きな傷跡が刻まれている少女は、まるで罰を受けるのを待っていたかのような眼でこちらを見据えてきた。
「…………」
「? おまえ……なぜ何も話さない?」
そう訊くと少女は首を振ってから俺の手を取り、人差し指で手の平に何かを書いてきた。それを脳内で解読すると……、
『コエ、ナイ。ハナス、ダメ』
「ッ! ……そうだったのか、酷な事を訊いた。すまない」
喉元の傷から察するべきだった。彼女は負傷で声を失い、こうして指を介してしか会話が出来なくなっているようだ。手話はまだ覚えていないのか、それとも覚えさせてくれなかったのか、それはわからない。ただ……彼女がSEEDを使っているのはエレンが教えてくれたから知っているが、こんな哀しい程傷ついた少女からゲイザーのように強引に抜き取ろうと思う気持ちは抱けなかった。
謝罪を聞いた少女は、微笑を浮かべて再び俺の手に文字を書き始めた。一字一字を俺は見逃さずに解読していく。
『SEED、スナイパー・ウルフ。ケダカイ、オオカミ』
「……FOXHOUNDの狙撃手の名か。だが……俺はどちらかと言うと、おまえの名を知りたいものだ」
そう言うと彼女は否定の意を込めているのか首を振り、こう書いた。
『ナマエ、ワカラナイ。オボエテナイ』
「どういう事だ?」
『ワタシ、ジッケンタイ。ソレ、ヤクワリ』
「実験体だと!?」
『イツカラ、ワカラナイ。キオク、バラバラ。ワタシ、ドウグ』
「な…………!」
『ヤクメ、ココデソゲキ。デキナイ、ショブン』
「ふざけるなッ!! おまえは道具なんかじゃない、一人の人間だ! 記憶を消されて、実験体として生かされ、自己すら喪失してしまっても、それでもおまえはこうして生きているじゃないか! だからもう道具なんて自分から言うんじゃない!」
『イキカタ、ワカラナイ。ドウグ、カンガエナイ。ワタシ、コレデイイ』
「良い訳があるか! おまえはもっと自由に生きて良いんだ! こんな所に縛り付けられなくても良い、おまえだけの人生を謳歌するんだ!」
『ジンセイ……』
少女は自分の手を見つめた後、天を仰いで目を閉じた。その時、彼女の眼からほろりと流れた滴が光る。この少女はまだ世界に生まれていない。そしてそれをいい事に何にも知らせず道具として扱い、彼女に当たり前の生き方を教えなかった。そんな悲しい経歴を持つ彼女
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