四十九話:Good bye my world
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この手紙を読んでくれているのは、ルドガー、お前だろうか? そうだとしたら、俺の記録データも読んだことだろう。……言い訳はしない。あれに記したことは、すべて事実だ。ルドガー、お前は、俺をできる兄貴と見てくれてたが、実態はひどいものだったよ。
俺は、お前を利用して力を得て尚、フル骸殻にも至れず、カナンの道標どころかクルスニクの鍵すら発見できなかった。ユリウス・ウィル・クルスニクは、なにひとつなせない情けない男だったんだ。プライドを折られ、周囲の期待も裏切った俺は自暴自棄になった。
いっそ時歪の因子化してしまえば楽になる……そう思って無茶苦茶に分史世界を破壊した。リドウと遊び半分で破壊の数を競ったことや、時歪の因子を捜す手間を省こうと、街ごと住民を惨殺したこともあった……。でもな、そんな俺をお前の存在が救ってくれたんだ。
覚えているか?お前が7歳の時につくったトマトソースパスタを。お前の初めての料理だ。やつれた俺を心配して、たった7つのお前が、夕飯をつくって待ってくれていた……。あの日、お前の火傷だらけの手を見て、俺は決めたんだ。
お前を守るために生きようと。お前を一族の宿命には関わらせない。そのためなら、どんなことでもしようと。……だが結局、それすら果たせなかった。すまない……意地っ張りで無力な兄貴をどうか許して欲しい。そして願わくば……。いや、これ以上はお節介な兄貴の悪い癖だな。兄として、ただ信じているよ。
俺の弟―――ルドガー・ウィル・クルスニクは必ず正しい未来を選び取れるってな。
【ユリウス・ウィル・クルスニクより】
『……この部屋にも、もう帰って来ることは無いだろうな』
手紙を書き終えたユリウスはそう名残惜しそうに笑い、手紙を机の上に置く。身辺整理がされたその部屋はどう見てもそこの住人が自らの死を予感しているようにしか見えなかった。ユリウスは兄として出来る最後の大仕事の為にマクスバードへと歩き出す。
『ルドガー、お前がどんな選択をするのだとしても俺はそれを笑って受け入れよう。それが俺の、兄として―――掲げた理想だ』
一歩一歩、死へと歩みを進めているにも関わらず、彼の足に迷いはなかった。自分の勝手な価値観でしかないが弟を守ると決めた瞬間からこの世界は灰色からカラフルになった。
そして、例え一瞬だとしても、弟の描く世界が見られるならこの命を捨てることに戸惑いなどなかった。彼は既に、己の掲げた理想と心中する程の覚悟は出来ている。尚且つ、疑う余地もない程に彼はやりきれていた。なぜなら―――
――ユリウスの望む世界は、ルドガーが望む世界なのだから――
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