3部分:第三章
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第三章
「そうなのですが」
「じゃあ。早く終わって欲しいよ」
その言葉をまた出す。
「もうね。それまではここにいてもいいから」
「貴方は。今の人生は楽しんでおられないのですね」
「楽しみって?」
それを言われてもわからないような言葉だった。
「何、それ」
「いずれ御知りになられます。次には」
「次だね」
「今の貴方もまた貴方ですが」
光は今の彼にとっては実に不思議な言葉をかける。彼には全くわからない言葉であってもそれをかけるのであった。それでもといったように。
「次の貴方も貴方なのです」
「そうだといいね」
「では。次に御会いする時は」
「楽しさっていうのを教えて欲しいな」
「わかっています。それでは」
「ああ、ちょっと待って」
姿を消そうとする彼を呼び止めるのだった。
「最後にもう一つ聞きたいことがあるけれど」
「何でしょうか」
「君は誰かな」
このことを光に尋ねるのだった。
「あの僕を嫌ってた神だったっけ」
「ええ」
「あの連中とは違うっていうことはわかるけれど。誰なの?」
「その彼等に祭られている存在です」
「祭られている?」
「そうです」
こうヨルムンガルドに述べるのであった。
「私は。全てを見守っている存在」
「神様じゃなくて?」
「神と言うべきでしょうか。それとも」
「それとも」
「いえ。これからは貴方でもおわかりになられない世界です」
彼に答えようとはしない。話してもわかることはないだろうと判断したのである。
「これは」
「わからないんだ。僕には」
「そうです。それではですね」
「うん」
「その時を待っていて下さい」
「次の命を授かる時をだね」
「そうです。その時をです」
またヨルムンガルドに対して語るのだった。
「その時にまた。御会いしましょう」
「うん、またね」
別れを告げると光は完全に姿を消した。自分だけに戻ったヨルムンガルドはここで一人思うのだった。しかしそれは決して悪い考えではなかった。
「そうか。次があるんだ」
今生きているだけではない。このことがわかって少し嬉しかったのである。今のままがずっと続くと思って諦めてしまっていたからだ。
「だったら。待っていよう」
次にこう思った。
「次の人生が来るのを」
そうしてまた海のそこで眠りに入った。ラグナロクの時彼は海から出て厳しい顔の神と闘った。彼の持っているハンマーにより撃たれそれで倒れ伏したが決して苦しくはなかった。そして悲しくも無念でもなかったのだった。
「これで今は終わるんだ」
倒れ伏す中で呟くのだった。
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