1部分:第一章
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海草だけだった。上を見上げると遥か彼方がきらきらしているのが見える。動けど動けど見えるのはそうしたものと海にいる様々な生き物。広いが見えるのはそうしたものだけだった。
「ここは何処なんだろう」
彼はいつも思うのだった。
「そうして僕は何なんだろう」
こうも考える。だが幾ら考えても答えは出ることはない。周りにいるのは魚や海豹や鯨、そういったものばかりで腹が空いたら彼等を口の中に入れる。これは自然と身体が動いてそうさせた。だが誰も語らず音は聞こえるが声を聞いたことはない。ただそこにいるだけだった。
長い長い年月が経った。彼の身体は途方もなく大きくなり海を一周し尻尾が自分の頭のすぐ側に見えるようになった。それで普段はその尻尾の先を咥えて過ごすようになった。それからも長い時間が経ち彼はただそこにいた。しかしそんなある日のことであった。
「ヨルムンガルドよ」
いつもとは違う音が聞こえてきた。
「ヨルムンガルドよ」
「音?」
「聞こえますか」
また音が聞こえてきた。
「私の声が」
「いつもとは違う音だ」
もう声というものがどんなものかも忘れてしまっていた。最初に感じたあの悪意や恐怖のことは覚えていても。もう完全に忘れてしまっていたのだ。
「何だろう、これは」
「貴方に言っているのですよ」
「貴方っていうと」
「そう、貴方です」
ここで光が彼の目の前に出て来た。白く八方に広がる優しい光が。
「貴方にです。ヨルムンガルドよ」
「ヨルムンガルドって?」
「貴方の名前です」
こう彼に答えた。その光は。
「貴方の名前です。世界蛇よ」
「蛇・・・・・・僕は蛇だったんだ」
「はい」
また彼に教えてきた。
「そうです。貴方は世界を取り囲む蛇」
「僕は蛇」
「そして」
「そして?」
「この世界の終末に世に現われる存在なのです」
「世界が終わるの?」
彼、ヨルムンガルドには信じられない話だった。少なくとも彼にとって世界はあまりに長い時間を持っている。今までずっとこの海の底にいたからそれはわかるのだった。
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