3部分:第三章
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る。不覚にも酔い潰れた彼はそのまま意識を失い倒れてしまった。
ラムバーはそれを微笑みと共に見下ろしていた。それまでの艶と媚態を含んだ笑みではなかった。冷酷でその目に映るものを見下す、そうした酷薄な笑みをその黒い顔に浮かべていたのであった。
彼女は上着の胸の間に手を入れるとそこから鈴を取り出した。その鈴をちりん、と鳴らすと部屋の中にインドラが入って来た。その手にヴァジュラを持ち残忍な笑みをたたえていた。
「よし、いいな」
「はい、もう起き上がることはありません」
ラムバーはインドラに対して残忍な笑みを浮かべながら答えた。
「ようやく私もこの汚らわしい男から離れられるのですね」
「今まで御苦労だった」
インドラはラムバーに対してねぎらいの言葉をかける。
「だがそれもこれで終わりだ」
「そうですね。それではインドラ様」
「うむ」
ラムバーに応えつつゆっくりと近付く。インドラのその巨体の前に。
「私も屈辱に耐えてきたかいがあった」
「それでは今までのは」
「芝居だ」
憎悪に満ちた目でヴリトラを見下ろしつつ言い捨てたのだった。
「何が悲しくてこの様な化け物を兄と思わなくてはならんのだ」
「その通りですね。この醜い怪物を」
「怪物は死ね」
冷然とヴリトラを見下ろしつつ言い捨てた。その手にあるヴァジュラが一際強い光を放つ。まるで雷の様に激しく、そして酷薄な光を。
「せめて。精々その友情やら愛情やらを信じてな」
「身の程知らずにも程がありますね」
ラムバーはその惨い言葉を隠そうともしなかった。
「化け物だというのに」
「化け物に友情だの愛情だの幸福なぞ不要だ」
インドラもまたラムバーと同じ心であった。
「醜い奴には。そんなものはいりはしない」
「いるのは」
「憎しみがお似合いだったのだ。本来貴様が生まれたその世界がな」
ここまで言うとヴァジュラをヴリトラの額に振り下ろした。ブリトラは信じ、愛した者達の心を知ることなく息絶えた。後には彼の亡骸を見下ろし唾を吐きかけるインドラとラムバーがいた。
彼が死んだのを確かめると二人はその宮殿に火を点けた。ヴリトラの亡骸は業火の中で燃え尽き骨一本も残らなかった。
後に残ったものは彼が信じていた友情と愛情、そして幸福だけであった。それに裏切られたことを知らず。彼は死ぬまで己の中に芽生えたこの三つのものを信じていた。その三つに裏切られていたということには気付くことなく。最後まで信じていたのであった。
裏切り 完
2008・2・18
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