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第一章
裏切り
一つだけ知っていることがあった。憎しみだけを。
彼はただ憎しみにより生み出された。生み出したその仙人は生まれた彼に対して告げた。ただ憎めと。
「憎むのだ」
「憎む」
「そうだ」
歪んだ顔での言葉だった。その顔と声が彼が最初に感じ取ったものだった。
「何もかも憎み、戦うのだ」
「戦う。誰と」
「御前が戦うのは神だ」
「神?」
「そう、インドラという」
今度は彼が戦うべき相手を教えられた。
「インドラを倒せ。そして世界を荒らせ」
「荒らす。憎む」
「御前は既にそれを知っている」
こうも言われた。
「わかるな」
「・・・・・・わかる」
何故かそれがわかった。それはどうしてか彼にはわからなかった。だが彼を造ったその仙人にはわかっていた。そういうように彼を造ったからだ。
「憎み、そして荒らす」
「そうだ」
「そのインドラも倒す」
「ならば。御前が為すべきこともわかるな」
また彼に対して問うてきた。闇の中で言葉とその歪んだ顔だけが見える。目も禍々しく吊り上がりそれもまた彼の心に刻み込まれた。
「わかった。ではインドラを倒す」
「そうだ。倒せ」
「そしてこの世の何もかも。荒らし尽くしてやる」
本能からその言葉を出した。彼は自然とその感情を言葉に出すのであった。
「俺のこの力で」
「では立て」
立ち上がるように言われた。
「そしてインドラを倒し世界を荒らすのだ。いいな」
「・・・・・・わかった」
彼はその言葉に頷いた。そうして早速世界を荒らし何もかもを破壊した。竜に似た尾を持ち人と竜に似た醜い顔を持つ巨大な彼を人も神も障害と呼んだ。即ちヴリトラと。こう名付けられた。
ヴリトラは全てを破壊し大地を割り河も海も汚し星達を落とした。月も太陽も遮り世の中を混乱に陥れた。これを受けて神々も遂に動いたのであった。
「ヴリトラは私を最も憎んでいるのだな」
「そうだ」
「貴殿をだ」
神々は自分達の宮殿において茶褐色の肌に同じ色の燃え上がる様な髪の毛を持つその神に対して答えた。この神の名はインドラ。神々の中の軍神である。無論神々の中では勇者として知られている。
「わかった。では私が行こう」
「ヴリトラを倒すのだな」
「その通りだ」
他の神々に対して当然といった様子で答えた。
「あの者が私を最も憎んでいるのならな。それに」
「それに?」
「私は戦いの神だ」
その言葉には絶対の自信が込められていた。
「このことにかけて誓おう。私は必ず奴を倒す」
「必ずか」
「そう。何があってもだ」
その黒い目が燃えていた。だがその炎は赤いものではなかった。
黒い炎であった。その黒い炎をたたえながら他の神々に対して言う
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