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第一章
未亡人のミサ
ウェールズの端のある寒村に一人の年老いた未亡人がいた。名前をマシューという。
子供は皆成長して家を出て夫も昨年死に今では静かな老後を送っている。家にいるのは愛犬であるダックスフントのトトだけだ。他には誰もいない実に質素なものである。
家は教会の隣にある。信心深い彼女にとっては実に有り難いことであった。その為夫がもういないことを除けば実に満足した生活を送っていた。
そのマシューに。村の人々や牧師が声をかけてきた。この時彼女は家の玄関のところで安楽椅子に腰掛けてうとうととしていた。そこに彼等が来たのである。
「あのマシューさん」
「ちょっといいですかな」
「はい?」
その声に気付いて目が覚めると。丁度目の前に村の人達がいたのであった。皆穏やかに笑って彼女を見ていた。
「おやおや、皆さん御揃いで」
まずはにこやかに笑ってこう挨拶するのであった。
「一体何の用ですかな、この婆に」
「用件といっても大したことはないんだよ」
「そうそう」
皆白髪で丸眼鏡をかけている鼻の高い皺だらけの顔のマシューに対して述べる。
「別にマシューさんに悪いことじゃないし」
「いいかな」
「一緒にお茶ならちょっと時間が早いんじゃないでしょうかね」
マシューはにこにこと笑って彼等に告げた。見れば日はまだ一番上にまでもあがっていない。
「お昼というにももうちょっと」
「ああ、そういうのじゃないですよ」
「お茶じゃないです」
「はて」
そう言われて首を傾げるマシューであった。これまで彼女の足元で気持ちよく寝ていたトトも起き出しその黒い目を大きく開けだしていた。
「だとすると一体」
「もうすぐ一年でしょうか」
ここで牧師が彼女に言ってきた。
「確か」
「一年!?」
マシューは一年と聞いてまずはその丸眼鏡の奥の目を少し見開いた。黒い優しそうな目である。
「一年といいますと」
「だから。御主人のヘンリーさんの」
「一周忌じゃない」
「ああ、もう一年ですか」
言われた彼女が気付いているような状況であった。
「あの人が死んでもう」
「はい、一年です」
「そろそろ」
「早いものですなあ」
マシューはその話を聞いてしみじみといった感じで述べるのであった。
「あの人が死んでもう」
「それでどうされますか?」
「ミサは」
「はいですじゃ」
穏やかに笑って牧師の言葉に答えてきた。
「私もそうでしたけれどあの人もそういうことは好きで」
「ではいいですね」
「ええ、是非」
こう牧師に答えた。
「御願いしますじゃ。できれば」
「私の教会でいいですか?」
「是非」
また牧師に是非と述べる。
「それがあの人が一番喜ぶことで
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