9部分:第九章
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では」
「はい、はじめましょう」
それぞれ筆と紙と出しそれに何かを書いていく。見ればそれは和歌であった。二人は今互いに和歌を書きそれを競おうとしているのだった。
二人は同時に書き終わった。そうしてそのうえでそれぞれを見せ合う。すると。
「また互角ですね」
「そのようですね」
互いの歌を見てわかったことだった。
「では今日もまた」
「これで」
歌を見せ合ったうえですぐに背を向け合い別れる。それだけだった。
実は二人は想い合っていた。しかし歌では競争相手だったのだ。都を二分する歌の作り手として。互いの想いを押し殺してそのうえで歌を作り合う。今日もそうだった。
恋を忍ばせ歌を出し合う。二人はこうして互いの想いを確かめ合っているのだった。己の中にあるものをどうしようもなく感じ合いながら。これもまた運命であった。
「親王、今日もお見事でした」
「素晴らしい」
あのベテラン俳優達がそれぞれ礼服や十二単を着て夕菜の周りに来た。彼等はこの時代においても彼女の周りにいるらしい。
「ですがあの御方も負けてはいませんな」
「確かに」
若手の俳優と大柄な俳優もいた。やはり礼服を着ている。
「今日もまた引き分けですか」
「そしてまた明日も」
「負けはしません」
今は親王になっている夕菜は落ち着き、それでいて気品に溢れた声で彼等に対して返した。今も周りにある花霞を感じながら。
「私は。決して」
「勝たれるおつもりですね」
「その通りです」
今は十二単の女官になっている女優にも優雅に返す。その演技は先程のくの一のものとは全く違っていた。明らかに男、しかも貴公子のものであった。
「負けず。そして勝ちます」
「そうですか。それでは明日こそ」
「勝ちましょう」
「はい」
(ですが)
ここでは完全に親王になっていた。そのうえでの心の言葉である。
(私は。本当はあの人のことを)
目には花も周りの者達も見えてはいなかった。ただひたすらあの優雅な朝香を想っているのだった。だがそれは決して言えずに。この時代から移るのだ。
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