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映画
1部分:第一章
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えば」
 皆ここでもう一つの疑問に気付いたのだった。
「撮影中のことはな」
「ああ。楽しく演じさせてもらったって言うだけで」
「それ以外はな」
「やっぱりおかしいな」
 一旦疑問に抱くとそれが何処までも膨れ上がるのだった。
「撮影中の裏話なんて幾らでもあるのにな」
「それがない」
「しかもあの監督の人間性についても何も言わないよな」
「それどころか」
 今度はこの佐藤についての話にもなかった。
「あの人プライベートはどうなってるんだ?」
「さあ」
「何も聞かないよな」
「そうだよな」
 彼のプライベートは一切謎だったのである。中にはプライベートのことは明かさない俳優も多いが彼はそれ以上に全てが謎に覆われていたのだ。
「何処の出身なんだ?」
「経歴は?」
「確か何処かの高校を卒業してすぐに今の映画会社に入ったんだったよな」
「確かな」
 知られているのはこの程度だった。
「すぐに頭角を現わしてな」
「それで今に至るんだよな」
「とりあえずは叩き上げか」
 このことはわかった。
「けれどな。他にはな」
「何もわかってないんだよな」
「家族は?」
 これも不明だった。
「幾つなんだ?」
「五十位じゃないのか?」
 一応は外見やおおよその経歴から年齢は推察されたがそれでも完全ではなかった。
「それにしては若いような気もするしな」
「本当に何者なんだろうな」
「わからないな」
「ううん、本当に謎の多い人だ」
「全くだ。何者なのか」
 皆彼のそうした全てが謎に覆われているその姿を見て言い合うのだった。しかしそれで何かがわかる筈もなくやはり彼の謎はわからない。だがその間にも彼の新作が発表された。

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