2部分:第二章
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味い美味いと頬張っていたのだ。見れば口の中もその周りも手も全て馬の糞で汚くなってしまっていた。
「全く。汚いものじゃ」
「これはまたどうして」
「そんなことは言わずともわかろう」
夫の言葉は実に冷たく醒めたものであった。
「御主は化かされたのだぞ」
「化かされたというと」
「そうじゃ、狐じゃ」
やはりそれであった。
「隣の空き家の狐じゃ。してやられたのじゃ」
「何と」
「色々思うておるからじゃ」
怒ろうとしたその先にまた夫の言葉が来た。
「狐に対していな」
「読まれていたのでしょうか」
良子はその糞だらけの口で呻くようにして言った。
「まさか」
「それはわからぬ。しかしじゃ」
「しかし」
「狐だからといって何もせねば無下に嫌うこともあるまい」
そのことを妻に述べた。
「わしはそう思うぞ」
「そうですか」
「これに懲りたら馬鹿な考えを捨てよ」
豪快な彼にしては珍しく細部まで行き届いた言葉であった。
「わかったな」
「はい、よく」
妻もそれに頷くしかなかった。遠くから狐達の笑うような鳴き声が聞こえてくる。全ては彼女の嫌う心から出たことであった。近江の国に古くから残っている話である。
狐の悪戯 完
2008・6・1
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