四十六話:君へと捧げる鎮魂歌
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だけだった。
『やめてくれ……ミラがどんなに俺に伝えて欲しいことだったとしても……ミラ以外からは聞きたくない!』
腹の底から声を絞り出して震えながら話すルドガーの姿が黒歌には今にも壊れてしまいそうなほど脆く見えた。だが、それでも彼は壊れずに立っている。その心の強さにヴァーリはこれこそが彼の本当の強さなのだと理解する。
『そうだな……すまない。君の気持ちをもっと考えるべきだった』
『いいんだ。元々悪いのは全部、俺なんだから……お前が気にすることじゃない。……それと、いきなり剣を突きつけてゴメンな』
ルドガーは剣をゆっくりと引き、しまう。そして顔を上げて無理やり作った笑顔で笑いかける。その顔にミラ=マクスウェルは悲しそうな表情を浮かべるが何も言わずにルドガーを見つめるだけだった。黒歌達もルドガーという人間は辛い時でも無理やり笑顔を作って他人を安心させようとする人物だと知っているのでルドガーが無理をしているのを察する。
『さっき、俺さ……馬鹿な事考えていたんだよ。“ミラ”を殺したら、もしかしたら彼女が帰って来るんじゃないかって……でも、そんなことないよな。彼女は……もうどこにもいないんだから』
つい先ほど、自分を殺そうとしていたと言われたのにも関わらず、ミラ=マクスウェルはルドガーに向けて微笑みかける。その微笑みは大変、美しかったのだがルドガーにとってはミラがもうどこにもいないのだと実感させるだけで余計苦しくなるだけだった。それでもルドガーは前を向いて進む足を止めようとは思わない。そんな覚悟を感じ取ったのか、ずっと黙っていたミラ=マクスウェルが口を開く。
『君は強いな……』
『強くないさ、ただ、エルと約束したから。ミラに託されたから、俺は進み続けるんだ。これから先……どんなことがあっても』
『そういうところが強いというのだ……そろそろ、私は帰らせてもらおう』
ルドガーの返事に満足げに頷き、話すこともなくなったとルドガーに背を向けて帰ろうとするミラ=マクスウェルだったが何かを思いついたように突如として足を止める。そんな様子に見送っていたルドガーは不思議そうな顔をするが直ぐにミラ=マクスウェルの言葉に目を見開く。
『もう一人の私ではなく、私が君に伝えたいことがあったのを忘れていたよ。
もう一人の私を―――愛してくれて……ありがとう』
振り向きざまにそう言ってほほ笑む一瞬……“ミラ”に彼女が重なって見えた。ルドガーはそのまま歩き去って行く“ミラ”の後ろ姿をしばらく茫然として眺めていたが、ふいに目頭を押さえて証の歌を途切れ途切れながらに歌い始める。その歌を聞いた黒歌達がそのもの悲しさに涙を流す。エルが泣いていないのだから自分も泣くわけにはいかな
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