猟師と虎の仙人
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「ではな」
仙人はここで一旦姿を隠した。そして暫くして一匹の大きな白虎が姿を現わした。それが誰であるか言うまでもない。
虎は木の下まで来ると稽を見上げた。そして吠え掛かる。
「ひっ」
稽はそれを見て思わず声をあげた。やはり怖かった。
だが虎はここまでは来れない。ただ吠えているだけである。
跳び上がり襲い掛かろうとするがやはり届くものではない。それがわかると虎は稽を諦めたのか顔を下に向けた。そして藁人形に目を向ける。
その人形を前足で跳ね飛ばすと樽に近付いた。そして豚の血を飲みはじめた。
ゴクッ、ゴクッ、と音を立てて飲む。血はすぐになくなった。
虎は血を飲み干すと満足した顔でそこから去った。暫くして仙人が戻って来た。
「おい」
彼は木の上を見上げて稽に声をかけた。
「はい」
「もう済んだぞ、降りて来るがよい」
「わかりました」
彼は頷いて絹を解き下に降りて来た。そして仙人の前に来た。
「これで終わりじゃ。お主の命は助かった」
「有り難うございます」
彼は頭を垂れて礼を言った。だが仙人はそれを見て思わず苦笑した。
「礼はよい」
「何故ですか」
「わしはお主を食べようとしたのじゃぞ。礼を言われる義理はない」
「そうでしょうか」
「うむ。ただわしはお主の身代わりを頂いただけじゃ。そしてそれで満足した」
腹をさすりながらそう答えた。
「実は人間はあまり好きではないしの。知り合いの仙人にも多いし骨が多くて固い。お世辞にも食べて美味いものではないのじゃ」
「そうなのですか」
「うむ、少なくともわしはそう思っておる」
そう答えた。
「むしろ豚の方がよい。わしも満足しておる」
「はあ」
「豚の血は美味い。堪能させてもらったぞ」
彼は満足していた。
「ところでお主のことじゃ」
「はい」
稽はここで思わず顔を引き締めさせた。
「これでお主は助かったのじゃ。ほれ」
帳簿を見せる。だがやはり彼はは字が読めないのだ。
「読めずともここにはもうお主の名はない。よいか」
「はあ」
「だから安心せい。もうお主は食われることはなくなった。これから末永く暮らし、親を大切にするがよいぞ」
「わかりました」
彼は明るい顔でそう答えた。それから彼はさらに猟師として名をあげた。そして末永く親、そして家族と共に幸せに暮らしたという。
虎の食べ物 完
2005・1・17
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