猟師と虎の仙人
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服を着ている。
「貴方は」
「わしか?」
老人は問われてふと声をあげた。
「わしは仙人じゃ。昔からこの山に住んでおる」
「仙人様ですか」
「左様」
彼はそう答えて頷いた。
「ここはわしの家なのじゃ。夜露を凌ぐの。さて」
ここで仙人は口調を少し変えた。
「今度はわしが問う番じゃ。お主は一体どうしてここに来たのじゃ?」
「はい」
稽は問われて答えはじめた。
「鹿を追ってここに来ました」
「鹿を」
「はい。ここに逃げ込んだのですが」
「ふむ。先程の鹿じゃな」
「はい。御存知なのですか?」
「如何にも」
仙人は答えた。
「何故ならわしが今食したからのう」
「鹿をですか!?」
稽はそれを聞いて驚きの声をあげた。仙人が殺生を禁じられているのは彼でも知っていることである。
「そうじゃ。何かおかしいか?」
だが仙人はそれには全く動じてはいなかった。
「あの、しかし」
「お主の言いたいことはわかっておる」
彼はここで落ち着いてそう答えた。
「確かに仙人は殺生は禁じられておる」
「はい」
「しかしそれは人間の仙人であった場合じゃ」
「と言いますと」
「仙人にも色々あってのう。人からなるものと獣や草木等からなるものがおるのじゃ」
「そうだったのですか」
稽はこれについては知らなかった。仙人は人がなるものとばかり思っていたのだ。
「では貴方様は」
「うむ、わしは元々人ではない」
彼は答えた。
「わしは虎から仙人になったのじゃ。全ての虎の食いものを指定する仕事をしている。この世の虎の食べるものも量もあらかじめ決められておる」
「そうだったのですか」
「そしてわしはそれを決める仕事をしておる。それはここに記されておる」
そう言って一冊の書を取り出した。
「ここに全ての虎の食べるものが記されておるのじゃ。無論わしのものもな」
「はあ、それははじめて知りました」
稽はそれを聞いて感嘆したように言葉を漏らした。
「では我々のものもそうなのですね」
「その通り」
彼はまた答えた。
「人間のものはまた別に指定されておる。詳しい内容は管轄が違うのでわしは知らぬがな」
「はい」
「少なくともあの鹿はわしが食べるものでありお主が食べるものではなかったということじゃ。これでわかったかのう」
「わかりました、有り難うございます」
彼はそう答えた。
「わかってくれればよい。ところで」
「はい」
虎の仙人は質問を変えた。
「お主の名は何というのか」
「私の名ですか」
「そうじゃ。わしも自分のことを教えた。今度はお主の番じゃ」
「それでしたら」
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