7話 普通と異常もまた紙一重
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に何人かそういう目に遭わせた末に──恐れるまでもない程度にきちんと''理解''できていたし、絞首刑も電気椅子も、どんな結末に到るものなのかは充分に''観察済み''だった。それでも彼が司直の追跡から逃れ続けている理由はといえば、ただ単に、自由と生命を手放してまで刑務所に行ったところで得る物など何もないからであり、それならより享楽的に日々の暮らしを楽しむ方が、ポジティブで健康な、人として正しい生き方であろうと思っていたからだ。彼は殺す相手の生命力、人生への未練、怒りや執着といった感情を、ありったけ絞り出して堪能する。犠牲者たちが死に至るまでの時間のうちに見せる末期の様相は、それ自体が彼らの人生の縮図とも言える濃厚で意味深長なものばかりだった。なんの変哲もない人間が死に際に奇態な行動を見せたり、また逆に、変わり種に思えた入間が凡庸きわまりない死に方をした。──そういった数多の人間模様を観察してきた龍之介は、死を探求し、死に精通するのと同時に、死の裏返しである生についてもまた多くを学ぶようになっていた。彼は人を殺せば殺すほど、殺した数だけの人生について理解を深めるようになっていた。
知っているという事、弁えているという事は、それ自体が一種の威厳と風格をもたらす。
そういった、自分自身に備わった人間力について、龍之介は正確に説明できるほどの語彙を持ち合わせていなかったが──強いて要約するならば、''COOLである''という表現がすべてを語る。
喩えて言うならば、小洒落たバーやクラブに通うようなものだ。そういう遊び場に慣れていないうちは空気が読めずに浮いてしまうし、愉しみ方もわからない。だが場数を踏んで立ち振る舞いのルールを身につけるようになっていけば、それだけ店の常連として歓迎され、雰囲気に馴染んでその場の空気を支配できるようになる。それがつまりCOOLな生き様、というものだ。
言うなれば龍之介は、人の生命というスツールの座り心地に慣れ親んだ、生粋の遊び人だった。
そうして彼は新手のカクテルを賞味するような感覚で次々と犠牲者を物色し、その味わいを心ゆくまで堪能した。実際に比喩でも何でもなく、夜の街の享楽では、龍之介はまるで誘蛾灯が羽虫を引き寄せるかの如く、異性からの関心を惹いた。
酒脱で剽軽、そのくせどこか謎めいた居住まいから晒し出す余裕と威厳は、まぎれもない魅力となって女たちを惑わした。そういう蠱惑の成果を、彼はいつでも酒の肴の感覚で愉しんだし、本当に気に入った女の子については、血みどろの肉塊にしてしまうほど深い仲になることもしばしばだった。
夜の街はいつでも龍之介の狩り場だったし、獲物たちは決定的な瞬間まで捕食者である龍之介の脅威に気付くかなかった。あるとき、彼は動物番組で豹を見て、その優雅な身のこなしに魅せられた。
鮮やかな狩りの手口には親近感さ
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