6話 交叉する視点
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董装置は、古式ゆかしい朝顔形の集音部分があるせいで蓄音機と見粉うが、その下にあるべきターンテーブルと針がない。代わりに朝顔の終端にあるのは、針金の弦によって支えられた大粒の宝石である。この装置は時臣によって綺礼に貸し与えられた、遠坂家伝来の魔導器だった。
これと同じ装置が遠坂邸の工房にも据え付けられ、おそらくは今、時臣もまた朝顔に対面して座しているはずである。二つの装置の宝石は距離を隔てて共振し、朝顔から伝わる空気の振動を相互に交換しあう。つまりは遠坂邸の宝石魔術を応用した''通信装置''がこれだった。もともと魔術師でない綺礼にしてみれば、なにもこんな奇妙な装置を使わずとも無線機で充分事足りるように思えたが、遠坂の宝石通信機は無縁と違って万に一つも傍受される心配はない。より慎重を期すると思えば、時臣の流儀に沿うのもさして無益ではなかった。ともあれ当面は、アーチャーとアサシンと合同で敵に手を組んでることを見破られずに敵を倒していく作戦で行く予定であることに変わりわない。
○
岩壁間際の集積場に積み上げられたコンテナの山の隙間から、切嗣はそっとワルサー狙撃銃の銃口を覗かせ、電子の目で夜の闇を透かした。まずは熱感知スコープ。……いる。
夜気に冷え切った黒と青の空漠を背景に、くっきりと浮かび上がる赤やオレンジの反応色。
ひときわ大きく白熱する熱源は、おそらくサーヴァント二体ぶんの映像だ。
激しく交錯する両者の放熱は、渾然一体となって大輪のフレアを咲かせている。
それよりも遥かに小さいが、まぎれもなく人体の放熱パターンとして映っている反応が、あと二つ。
道路の真ん中に佇立してサーヴァントの対決を見守っているのが一人、そしてもう一人は──やや離れた倉庫の屋根の上に、身を潜めるようにして蹲っている。
どちらが狙うべき標的なのかは、容易に判断がついた。確認のため切嗣は熱感知スコープのアイピースから目を離し、隣の光量増幅スコープを覗き込む。薄緑色の燐光に彩られた深海のような視界は、だが熱線視界よりはっきり鮮明やはり往来に立っている方がアイリスフィールだった。
さも誇り高いセイバーのパートナーに相応しく、隠れ潜むことなく堂々と戦うよう、彼女には予め言い含めてある。ならば屋根の上にあった熱源こそが、敵のマスター……切嗣のセイバーと渡り合う二槍の使い手、ランサーの主であろう。闇に身を潜めたまま切嗣は冷酷にほくそ笑んだ。望ましい最良の展開だ。
ランサーのマスターは幻影や気配遮断といった魔術的な迷彩で自分の位置を隠匿していたのだろうが、それで事足れりとして機械仕掛けのカメラアイに対する配慮を怠った。
これまでに切嗣の餌食となってきた魔術師たちと、まさに同じ轍を踏んでいる。
さっそく口元のインコムで、戦場の反対側に陣取って
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