7部分:第七章
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「そなたは」
「お待ちしておりました」
館の門の前に大五郎がいた。小柄な身体をさらに屈めて源介に恭しく挨拶をしていた。
「全ては御済みになられたようですか」
「うむ」
燃え盛る館の方を振り向いて答えた。そこには紅蓮の炎があった。
「終わった。敵の首魁は見事討ち取った」
「左様ですか、それは何よりです」
「ところでだ」
源介はここに来るまでであることに気付いた。
「何か」
「あの従者や館の者がいなかったのだが。どうした」
「それは全て拙者が倒してしまいましたわ」
「そうか、御主がか」
「驚かれないので?」
「わかっていたからな」
源介はすっと笑ってこう述べた。
「御主は。只の庄屋ではあるまい」
「さてさて、何のことやら」
「いや、誤魔化す必要はない。その目を見ればわかる」
彼は言った。
「その目、そしてその動きは。忍びの者だな」
「おわかりでしたか。流石は春日様で」
「して私のことも知っていたか」
「はい。お察しの通り私めは忍びでもあります」
大五郎はにこりと笑ってそう述べた。
「元は真田にいたのですが何代か前にこちらに移り住みましてそれで」
「真田というと」
「はい、真田様にお仕えしておりました」
「そうだったのか」
信州の豪族の一つで清和源氏の流れを汲むとされている。近頃武田に接近してきており代々智謀と軍略の家とされている。
「ですが今は武田様に」
「そういう意味では私と同じだな」
ふと彼に親近感さえ抱いた。
「私もまた。流れて晴信様にお仕えしているのだから」
「何、今の世ではそれが当たり前ですぞ」
大五郎は笑って応えた。
「その身からの新参は」
「そうであるかな」
「ですから。それは御気に召されることはありますまい」
「うむ、ではそう思うとしよう」
「それよりもですな」
「何じゃ?」
源介は大五郎の言葉に顔を向けた。怪訝そうな顔になる。
「何を為すかということこそが大事なのです」
「何を為すかか」
「見れば貴方様は大変いい相をしておられます」
「顔がいいというのは」
「いえ」
だがそうではないと。大五郎は首をゆっくりと横に振って述べた。
「顔の美しさと相はまた違うのです」
「そうなのか」
「そのうえで述べさせて頂きます」
彼は言った。
「貴方は。武田において必ずや大事を果たされるでしょう」
「左様か」
「え。そして後の世にもその名を知られる。そうした方になられます」
「それは望んではおらぬがな」
だが源介は後の世に名が知られるということにはあまり関心がないようであった。
「それはよいのですか」
「私は。そうしたことは望んではおらぬ」
それをはっきりと述べた。
「だが。御館様の為に大事を果たせるというのは
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