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毒婦
5部分:第五章
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のじゃな」
「左様で。御覚悟を」
「ふふふ、面白い」
 だが姫はそう言われても余裕のある態度を崩してはいなかった。
「面白いとは」
「今までは詰まらぬ男共を糧としてきた」
「ではやはり一連の怪異も」
「左様。わらわが力を得るには人の精が必要なのじゃ」
 それは明らかに魔物の言葉であった。
「それで糧としておった。じゃが所詮は詰まらぬ者達の精」
 姫は言う。
「さして力にはならんだ。じゃが御主は違うようじゃな」
 ゆっくりと立ち上がる。その周りに青白い火の玉が数個浮かび上がる。それによって現われる影は。人のものというよりは巨大な狐のものに近かった。
「管狐か」
 源介は杯を放り投げ座ったまま刀の柄に手をやった。そのゆらゆらとした影を見据えながら言う。
「左様、わらわは狐よ」
 姫もまたそれを認めた。
「それも管狐じゃ。千年生きたな」
「千年生きた狐は妖狐になるというが」
「わらわは他の狐とは少し違う。そもそもが管狐なのじゃからな」
 この管狐という狐は狐であって狐ではない。細長く、管に棲むことからこの名がついた。そして人に憑く。すなわち魔物であるのだ。
「そのわらわに。勝てると思うか」
「そうでなければここへは来ぬ」
 源介は全く臆してはいなかった。
「来るがいい、姫よ。ここで成敗してくれる」
「殊勝よの、よいのは顔だけではないようじゃ」
 姫は青白い狐火に照らされる源介の顔を見て述べた。
「そこまでの肝もあれば。ただ糧にするのは勿体ないのう」
「ではどうするつもりか」
「安心しやれ、心を奪わせてもらう」
「心を」
「してわらわの臣となってもらうぞ。わらわの国を作る為にな」
 そこまで言うとその豪奢な着物に覆われた右手を前に向けてきた。するとその着物の袖口から無数の細長い狐達が襲い掛かってきた。
「管狐っ」
「左様、管狐じゃ」
 姫はその管狐達を放ちながら言う。
「妖かしの力を持ちし狐じゃ。かわせるかな?」
「かわす必要はない」
 源介は姫にとっては意外なことに落ち着いた声であった。
「痩せ我慢を」
「痩せ我慢かどうかは今見せよう」
 それぞれ複雑な動きをして宙から襲い掛かる狐達。それが近付いたところで源介はその刃を煌かせた。
 それは一つではなかった。一瞬の間に無数のきらめきが瞬く。それが終わった後畳の上には赤い血が舞い降りる。
「伊達に御館様の御側にいるわけではない」
 源介はその刃を前に構えながら述べた。

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