3部分:第三章
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した自信が確かにあった。そして。今女のいる屋敷に向かうのであった。
女のいる屋敷はよいものであった。大五郎のそれが一軒家と変わらないのに対してこちらのは本当に見事な屋敷であった。壁まで白く整っていた。
「まるで殿の御側におられる方々の御屋敷のようだな」
源介はその白い壁と立派な屋敷を見て思った。武田の重臣達はやはりそれなりの家に住んでいる。それは源介のような若輩にとっては夢の様な家であった。それを思い出したのである。
「ここまでなるのに。どれだけの金と人がいったのか」
それを考えるだけで怪しいものがあった。屋敷からは何か得体の知れぬ気まで感じる。源介はそれを察しながら身構えてすらいた。
「おい」
その屋敷の門に向かう彼に声がかけられてきた。
「そこの男」
「それは拙者のことか」
「そうだ、屋敷に何か用か」
見れば門のところに一人の男が立っていた。険のある眦を持つ大男であった。服の間から毛と異様なまでに盛り上がった筋肉が見える。優に源介の三倍はあろうかという身体であった。
「あるといえばある」
源介はその巨体に臆することなく述べた。
「私は旅人なのだが」
「旅人か」
「そうだ、宿を探している。主人はいるか」
「この屋敷に宿を借りたいというのだな」
「その通りだ」
男を見上げて言う。
「駄目か」
「まだ駄目とは言っていない」
男は答えた。
「見たところ卑しい男ではないな」
男は源介をその険のある目で見回しながら述べた。
「そうじゃな」
「お待ちや」
ここで後ろから女の声がした。
「誰と話しておるのじゃ?」
「あっ、これは」
男はその声を受けて顔を後ろに向けた。見ればそこには緑と赤の豪奢な着物を纏った女がいた。切れ長の少し吊り上がった黒い目を持ち、細い顔を持っている。尖った印象を受ける顔でそれがどうにも狐を思わせる。だが整ってはいた。誘い込まれる様な、そんな雰囲気の女であった。髪は黒く、闇の様にそこにあった。それが着物の色に比して互いを際立たせていた。それが実に妖しい姿であった。
「実は旅の男が来まして」
「男」
それを聞いた女の顔がピクリと動いた。源介はそれを見逃さなかった。
「若い男かえ?」
「はい、どうされますか」
「その男は何処におるのじゃ?」
「そこにおりますが」
そう言って源介を指差す。それを受けて源介を見ると女の顔は妖しく微笑んだのであった。まるで獲物を見つけた狐のようにである。
「ほほお」
源介の顔を見ると同時に目が微かに動いた。彼はそれを見て咄嗟に目だけを逸らさせた。そこに何か奇怪な光を感じたからであった。
「これはよい男じゃな。美しい」
「御気に召されましたか」
「うむ。これ」
男に応えると同時に源介に声をかけてきた。
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