暁 〜小説投稿サイト〜
毒婦
1部分:第一章
[2/3]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
体」
 重臣達の中でも上座にいる晴信によく似た男が問うてきた。彼の名は武田信繁。晴信の実の弟であり彼の片腕として武田家を支えている男である。彼こそは武田の副将であるとまで言われていた。晴信にとっては彼の腹心中の腹心であり最も頼りにしている者である。
「春日じゃ」
「春日」
「あの者ですか」
 信繁を含めて重臣達はその名を耳にして様子を変えてきた。
「そうじゃ、あの者ならば問題ないと思うが」
「確かに」
「春日なら大任を果たしてくれましょう」
 武田でも名の知られた者達が一様に納得したように頷く。だがここで信繁はあえて兄に対して述べた。
「ですが御館様」
「まだ何かあるか」
「春日では少し目立ちませぬか」
「言われてみれば」
「確かに」
 重臣達もそれに応える。
「何しろあの者は」
「あれだけだと」
「何、それも考えてのことじゃ」
 晴信は重臣達の声を耳に大きく笑ってきた。
「確かにあの者は目立つな」
「はい」
「まことに」
「だからじゃ。それだけに話の解決には向かう」
「左様ですか」
「一先話が向けばな、後はあの者が自分でやる。それで終わりじゃ」
「そうでしたら」
「ここはあの者に任せましょう」
「吉報を待っておれ」
 晴信は大きく構えて言った。
「じきにこの話は事の仔細がはっきりしたうえで終わるからな」
「はい」
「それでは」
 重臣達は皆一様に頭を垂れた。晴信は最早父信虎以来の重臣達をも心服させていた。血縁の者も多いが若くして老臣達を従えさせるものが彼にはあった。だからこそ。皆彼の言葉を信じ吉報を待つのであった。
その頃中山道を甲斐から西に進む一人の若者がいた。道行く人や道の側の村人達は擦れ違うだけで思わず振り返らせてしまっていた。
「何と」
「あの様な者がいたとは」
 その格好は普通の旅装束であった。腰に刀を差し編笠を被っている。その格好を見るに武士であることがわかる。だが人々を振り返らせていたのはその顔にあった。
 見れば女と見間違うばかりの麗しい顔であった。切れ長の目は清らかに澄み肌は紙の様に白くきめ細かい。これだけの肌を持っているのは女でもそうはいない。唇と頬は赤くまるで紅をさしたようである。鼻立ちも唇も形がよくまるで人形のようである。彼こそが晴信が話の解決の為に送り出した者、春日源介であった。
 甲斐国の豪農である春日家に生まれ十六で晴信に召抱えられた。その美貌と才覚により晴信に愛され奥近習となっている。この時十八、晴信にとっては期待の家臣の一人であった。
 その美男子が今甲斐から信濃に向かっていた。行く先は一つ、騒動が起こっている村であった。
「あんれまあ」
 彼を見た農婦の一人がまず声をあげた。
「どうしたんだ、御前」
「あんた見なよ」
 隣で畑を
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ