5部分:第五章
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」
こうして二人は信義に土をかけそれで埋めたのだった。それで信義は成仏したのだった。ささやかだがそれでも彼を供養し終えた二人はゆっくりと立ち上がった。そしてそのうえで顔を見合わせて言葉を交えさせたのであった。
「世の中わからないものだべな」
「そうだべな」
まずはこう言い合った。
「戦がなくても辛いことがあって」
「こんな飢饉があって」
「そうだべ。辛いことはあるだ」
またこのことを話した。
「それでも。辛いことは終わって」
「んだ」
二人で信義の言葉を反芻もした。
「そだな。我慢してればそれが終わって」
「生きていけばいいって」
「じゃあ。そうすっか」
唐兵衛はおゆりに対して言った。
「今どんだけ辛くてもな」
「諦めないで」
「できれば弱音も吐かないで」
「それは難しいけんどもな」
今のおゆりの言葉には少し苦笑いになったおゆりだった。
「んだども。頑張ってな」
「やってくだ。我慢して」
「そうすっか」
「わかったら。戻るだ」
唐兵衛の声はこれまでより僅かだが明るくなってきていた。
「そして。まずは寝て」
「明日食べ物を手に入れて」
「まずは明日を生きるだべ」
「そうだべな」
二人の言葉は互いの心に入るだけではなかった。それぞれの心にも入っていた。そうしてそれが自乗されて絡み合い深くなっていって。それが心を覆っていくのだった。
二人はその心を確かめ合いつつ立ち上がってそのまま家に帰った。そうしてまずはゆっくりと寝てそれから次の日を生きた。暫くそうして生きているうちに飢饉は終わり彼等は何とか生き延びることができた。天明の飢饉の中であった小さな、だが確かな話である。
野原で 完
2009・1・4
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