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雲は遠くて
75章 バッハの話に熱中の信也と詩織
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えていたら、バッハは、やはり、神への信仰が深かったわけでしょうから、
おれも、ふと、神さまっているのかな?とか考えをめぐらしてしまうわけですよ。あっはは。
そんなわけで、つい、歌詞に、マザー・テレサとか書いちゃったんだろうね」

 そういって、やさしい眼差しで語りかける、信也の表情を、うっとりと(なが)める詩織である。

・・・しんちゃんって、ロックミュージシャンなのに、知性的な容姿なんだから。
それなのに、野生さもあるんだから。いまに、芸能界で大ブレイクしちゃったり、
・・・と詩織は、信也に見とれながら、ぼんやりと思う。

「・・・そうなんだぁ。確かに、バッハの、G線上のアリアとかって、そのモチーフ(主題)は、
神さまやキリストのような感じですものね。
しんちゃんも、そのうち、神さまを信じるようになったりしちゃったり。うっふふ」

「そうだよね。バッハみたいに、美しくって、人々に愛され続ける、
永遠に残るような作品を創造できるのなら、神さまを信じるかもね。あっはは」

「うっそー!しんちゃん」

「な、わけないって、詩織ちゃん。あっはは。
おれって、なかなか、神さままでは信じられないよ。実際に見たりしない限りね。あっはは」

「よかった。それで安心。わたしも、信仰心って、希薄なのよ。うっふふ」

「まあ、おれも、一生、信仰心は薄いんだろうね。詩織ちゃんと同じさ。それでもいいじゃん。あはは。
でもね、バッハのことを調べているうちに、わかったこともあるんですよ。
やっぱり、バッハという人の中には、いわゆる『愛』っていうものが、
それこそ、ベートーヴェンが言うように、
果てしなくて、広くて、深いものとして、あったんだんだろうってことを思うんですよ。
そんな大きな『愛』が、バッハの芸術を、大海のように、美しい、生命力のある、
いつまでも人に感動を与える、すばらしいものにしているんだろうってことですよね」

「そうよね。しんちゃんの言うとおりね。愛の力よね。愛の力って、偉大よね。
それに、バッハの曲を聴くことって、歌の創作には、とてもいいことだと思うわ。
だって、たとえば、ハードロックのディープ・パープルのギターリストのリッチー・ブラックモアだって、
バッハやクラシック音楽から強い影響を受けていて、バッハの曲のコード進行を、
ハイウェイ・スターとかに使っているらしいもん」

「そうだね。バッハって、ロックに通じる人なんだよね。ロック魂の元祖かもしれないなぁ。あっはは。
なぜならね。バッハの生きていた時代には、マルティン・ルターという、偉大な宗教改革者がいたんだよね。ルターは、当時の腐敗の進行するカトリック教会と対決し、宗教改革の立ち向かい、
聖書のドイツ語訳を完成させたりしたんだよね。
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