ターン20 鉄砲水と冥府の姫と
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を聞いたの」
「声?」
「そう。その声は私に、事故のショックのせいで私が一生喋ることはできないけど、ある条件さえ受け入れてくれればその代用策を出してくれるって言ったの、だって。まだ小さかった私は、その取引を喜んで受け入れたんだ。それで、今でもその取引は続いてるの、ってさ」
「取引……」
どうしよう。去年散々不思議なものを見てきてるから一概に嘘とは言い切れない、というか多分夢想の話は本当なんだろう。ただ口がきけないのを直すほどの力を持った奴のする取引なんて、絶対ロクなものじゃない。嫌な予感がすごくする。
『ちなみに私は死人を蘇らせたけどな』
「(ちょっとチャクチャルさん静かにしててね)」
『命の恩神に対して雑な扱いだな、まったく………とはいえ、確かにその手の取引はだいたい裏があるだろうな』
最後に不安をかきたてるようなセリフを残し、チャクチャルさんの気配が頭の中から引いていく。
「私が何か喋りたくなると、その内容を話すことのできない私に代わってその取引の人が代わりに私の口を動かしてくれる。そのかわり、いつか必要になったときに私が1つ言うことを聞く。なんだか改めて口に出すと………ううん、出してもらうと信じられない話だけど、全部本当だってさ。私のこの変な語尾は私本来の物じゃなくて、私が言いたいことを代わりに喋ってもらってる、いわば伝言としてついたもの、ってさ」
なんだか複雑な話になってきた。僕にとってこの世のあらゆる難しい話は専門外なんだけど、明らかによからぬ話なのは感覚的にわかる。世の中皆チャクチャルさんみたいにほぼ無償で何かしてくれるほど甘いわけではないのだ。
でも、僕にはどうすることもできない。ダークシグナーとして生まれた僕は、いいことか悪いことかは別として普通の人にはできないたくさんのことをできるようになった。それでも、チャクチャルさんやその夢想の取引相手とやらのような『本物』には遠く及ばない。
「私の話はこれで終わり、だってさ。ごめんね、変な話を最後まで聞いてもらって。さ、帰りましょ」
重い雰囲気を振り払うように明るく、夢想が墓に背を向けて歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
その後ろ姿を追いかけて少し歩き、途中で振り返って河風家の墓をもう一度見る。
「僕は、どんなことがあろうとも、夢想のそばにいたいもんだね。この先どうなるとしても、そこは譲らないよ」
改めて自分の思いを口にすると、なんだか気が引き締まったような気がした。よし、僕もそろそろ帰ろう。
………そのあと帰りの電車賃が1人分しかないことが発覚したため夢想に切符を押し付けて歩いて童実野町まで行くことになったのはまた別のお話。
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