暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 少年と贖罪の剣
第九話:亡霊の王
[1/5]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


 私は孤独だった。
 兄妹はいない。元々体が弱かったという母だ。彼女は私を産んで間も無く、息を引き取ったらしい。
 残された父親は、母を失った苦しみを抱えながらも、しかし私を育ててくれた。

 でもある時、私は父親に捨てられた。

 行かないでと、伸ばした手を覚えている。
 捨てられる事が怖くて、一人になることが嫌で、それでも伸ばした手は何かを掴むことなく空を切った。

 ごめんな、って言って、本当に悲しそうな顔をして去っていく父に、私はただただ手を伸ばすことしかできなかった。

 その後のことはよく覚えていない。気がついたら孤児院にいたし、気がついたら、一人になっていた。

 暗い部屋の中。開け放たれた扉から差し込む月光を受けて去っていく父の背中。

 その時から、私はどうも暗闇が苦手だ。



† †



 NPCの少女ーーユーリと出会った場所から目的地の地下街まで、五分もかからなかった。
 大きな木製の門を開き、街の中に入り込むと、そこはどうも廃墟街のようだった。

「まあ、こんな暗いところに人は住まないか」

「……そう、だね」

 警戒を強めながら街を観察していると、否応なく建物がなにかに削られている様が目に入る。
 この傷跡が鋭利な刃で斬り裂かれたものだとしたら、昔ここで争いがあったという設定なのだろう。

「ふむ…どうやらここに件の亡霊王がいるようだが……どうかしたか、ユメ」

「えっ、あ、ううん。なんでもない、大丈夫だよ」

 レンの後ろをついてくるユメの顔色は、こんな暗がりの中でよく見なくても真っ青だった。心配はかけまいと気丈に振舞っているようだが、短くない付き合いであるレンが、それは虚勢だと気づくのは容易であった。

 はて、それ程に暗闇が怖いのだろうか。
 ならばと、レンは空いた左手でユメの右手を握った。突然の行動に驚いて、思わず手を振り解こうとしたユメの肩を掴んで、レンは彼女の瞳を覗き込んだ。

「こうしていれば少しは恐怖も紛れるだろう? 正直、なぜここまで怖がるのかオレには分からないが、なにかあるなら頼れ。今は、パートナーなんだからな」

 強い意志が宿った瞳が、ユメの竦んだ心に火を焼べる。
 いつだってそうだった。彼はみんなの心を奮い立たせることができる。決して揺らぐことのない強靭な意志力。それに、今までどれ程救われたことか。

 だからこそ、これ以上彼に迷惑をかけることはできない。
 なにより、このトラウマは自分で乗り越えなければならないのだ。

「ありがと、レン。けど、本当に大丈夫だから」

「……そうか。まあ、なにかあればなんでも言ってくれ。オレにできることならするから」



† †


[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ