暁 〜小説投稿サイト〜
Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第23話 消え逝った願い
[1/4]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 

「―――傷物にされちゃいました。」
「人聞きの悪いこと言うな。」

「ふふっ冗談ですよ。」

 日が完全に落ち、布団の中で腕枕をされた唯依が微苦笑を浮かべて言う。それに思わず眉を顰める。―――まるで襲ったみたいだ。
 まぁ、かなり強引に迫った自覚はあるのでバツを悪くする忠亮。そんな彼を唯依は小さく微笑みを零しながら見上げた。

「ねぇ、忠亮さん……。」
「なんだ。」

「忠亮さんは私のことを愛しているって言ってくれましたけど、私の何処を好きになったのですか?」

 胸元に顔を寄せながら不意に唯依が訪ねてくる。
 肌を重ねていた最中も含め、かなりの数を口にしたが、そう云えば言ってなかったなと思至るが、改めてとなるとどうにも気恥ずかしい。

「そうだな……初めは素直じゃない女だと思った。」
「む、なんですかそれは。」

 ぽつりぽつりと零し始めた言葉に唯依が唇を尖らせて非難する。が、続けた忠亮の言葉に唯依は息をのんだ。

「仕方ないだろ。お前、素直に笑わないんだから。」
「……!」

 一体、何時からだろう。楽しいことを素直に楽しいと感じ笑えなくなったのは。 
 一体どうすれば、赤ん坊のように感情のまま泣けるのだろうか、笑えるのだろうか。
 そんな心の迷子になっていた唯依、それを忠亮は見抜いていた。

「いつも何かを堪えようとして、心に蓋をして―――何が建前で、何が本心なのかすら分からなくなってしまった迷子みたいに見えたんだ。」

 自覚があった唯依。自分が堅物すぎる気があり、それゆえに面倒な女だという自覚だ。
 だれが、好き好んでこんな女を選ぶのか。
 唯依は、自分の付録以外に価値を見出していなかった。

 だが、しかし――


「ま、だからこそ可愛いなと思ったんだがな。」
「あう……」

 腕枕をしていた手で唯依の頭を撫でながら体を回し、唯依の顔を覗き込む忠亮。 
 その表情はとても穏やかな情愛の色を写していた。 
 面と向かってかわいいと言われた唯依が紅葉のように紅葉して赤面し俯いてしまう――どこか巣穴に引っ込んでしまった子リスのようだ。

「お前の笑顔を見たい、作り物でも何かを堪えての笑みでもない―――お前の心からの、何も遮るもののない純粋な笑み、それを見たいんだ。」
「忠亮さん……ありがとうございます。」


 瞳を伏せ、一滴の泪を零しながら唯依は礼を口にする。
 胸が痛くなった、これほどに想われて幸せだった。
 恋から始まった結婚ではなかったが、この人に出会えてよかった。たぶん、之ほど自分の幸せを願ってくれる他人には出逢えない。



「私は、私が嫌いでした。―――恭子様みたいになりたくて、強くて凛々しかった彼女のようになりたくて……
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ