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さとり
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第一章

                         さとり
 吉兵衛は猟師である。この日も山に入って狩りをしていた。
 そうして獲物を獲っていた。兎に狐、それに雉。そうしたものを手に入れていた。
 しかし気付けば山の奥深くに来ていた。そこは彼が今まで殆んど来たことのないまでに深い場所だった。
 周りは木ばかりだ。他には何も見えない。しかし彼はその木々の中でも落ち着いてだ。とりあえずは適当な場所にたまたまあった石を椅子にして座ってだ。それから小枝を集めて火打石で火を点けて暖にした。
 兎を捌いてそれを炙って食べながらだ。彼はこれからのことを考えていた。
「さて、まずは腹を膨らませて」
 それからだというのだ。
「もう遅いしな」
 見れば周りが暗くなろうとしていた。夜が近くなっている。
「ここで夜を過ごして。朝になって帰るか」
 確かに殆んど来たことのない場所だ。それでもだ。
 知らない場所ではない。帰ることはできる。それで落ち着いていたのだ。
 とりあえず食べるものを食べてそれから寝ようとした。しかしだった。
 ここでだ。不意にだった。
 彼のところにだ。やたらと大きな、しかも服は着ておらず全身黒い濃い毛に覆われたものが出て来た。一目で人間ではないことはわかった。
 しかし何者であるのかはわからない。吉兵衛はそれを見てだ。まずはこう思った。
(妖怪か?)
 こう心の中で思うとだ。すぐにだ。
 その濃い毛の、顔だけはとりあえず人間に見えるものがだ。彼にこう言ってきたのだ。
「今わしを妖怪だと思ったな」
「むっ?」
「そう思ったな」
 こう彼に言ってきたのだ。
「そうだな」
「その通りだが」
 吉兵衛もこうそれに答える。
「わかったのか」
「そうだ。そうだ、わしは妖怪だ」
 自分から言ってきたのだった。
「わしはさとりという」
「さとり?」
「そう、わしはさとりというのだ」
「さとり?」
「まあ詳しい話は後でだ」
 さとりは話を一旦切ってきた。そのうえでだ。
 彼はだ。吉兵衛に対してこんなことを言った。
「美味いのだな、その兎は」
「それもわかるのか」
「うむ、わかる」
 こう彼に話す。彼の横に座ったうえでだ。
「そうか。兎は美味いか」
(食いたいのか?)
 吉兵衛はここでこう思った。
(この兎を。それなら)
「それはいい」
 吉兵衛が兎を分けようとしたそこでだった。さとりはだ。 
 こんなことをだ。彼に言ってきたのだ。
「わしは肉は好まぬ」
「むっ?」
「兎も鳥も食わぬ」
 そうだというのだ。
「魚は食うがな。後は山菜や果物を食うのじゃ」
「そうなのか」
「そうじゃ。だから兎はいい」
 吉兵衛が言う前にだ。こう言ってきたのだ。
「御主一人
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