4部分:第四章
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第四章
「そうなったらいいんだよ」
「満足して?」
「それで?」
「そう、そうなったらいいんだよ」
これが彼等への今の言葉だった。
「絶対に死ぬんならね」
「それでいいって」
「どういうこと?それって」
「よくわからないけれど」
「生きていけばわかるさ」
また言う彼だった。
「生きていればね」
「生きていればって」
「お爺ちゃんもうすぐ死ぬのに」
「それでも?」
「わかるの?」
「わかるさ」
彼は微笑んで話すのだった。
「それがね。わかるようになるさ」
「ううん、そうなんだ」
「生きていればなんだ」
「死ぬのなら満足して死ぬ」
「それがいいって」
「そういうことだよ。じゃあね」
それではだとだ。良昌はまた話した。
そしてだ。彼等に話した後でだ。
彼は静かに目を閉じ息を引き取ったのだった。まさに大往生だった。
その葬儀はだ。彼の子供達も孫達もだ。誰もが集まった盛大なものだった。そしてその遺影でもだ。彼のその表情はというとだ。
「いい写真だよなあ」
「こんな穏やかな笑顔の遺影ってな」
「そうそうないよ」
「うん、ないね」
「まずないわよ」
喪服姿の遺族達がだ。その遺影を見て話すのだった。
「お爺ちゃんって本当に幸せだったんだな」
「幸せに生きてきたんだな」
「そうだね。遺影だけじゃなくて」
「今の顔も」
皆棺の中の彼の顔を見る。するとその顔もだ。
穏やかな微笑みであった。その顔でそこにいてだ。静かに眠っていたのである。
その顔も見てだ。彼等は言うのだった。
「こんなにいい顔をして」
「気持ちよく寝ているみたい」
「死んだっていうのに何も憂いもないみたいに」
「こんなにいい笑顔でいるなんて」
「何か送る方もな」
「落ち着くよな」
「嬉しくなるよ」
温かい嬉しさをだ。感じてのことだった。
そうしてだった。彼等はだ。
誰も泣くことなくだ。穏やかな笑顔で彼を送ったのである。こうして彼の死は終わった。だがそこには何の悲しみもなくだ。満ち足りたものがあった。彼自身だけでなく残された者達もそう感じている、そうした死だった。
黒衣 完
2011・4・30
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