第十四章 水都市の聖女
第九話 巨人殺し
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ソレは、少年だった。
ソレは、マリコルヌ・ド・グランドプレと呼ばれる少年だった。
「一つ―――忠告するぜ」
刀で切り裂いたかのように鋭く口角を釣り上げマリコルヌは嗤う。
僅かに開かれた口元からは、血のような朱が見える。
酷く興奮しているのか、薬物を使用したかのようにこめかみに太く血管が浮き上がり、ピクピクと蠢いている。
狂的な笑み。
「俺は“風上”のマリコルヌ」
腰を落とし、拳を前へ。
丸っこい体型は一見すれば贅肉がついた身体に見えるが、破れた服から覗く伸ばされた腕には弛んだ様子は全く見られず、鋼鉄の棒のように太く硬い腕には蚯蚓腫れのような血管が無数に浮かんでいた。全身に力が込められ、張り裂けんばかりに分厚い皮下脂肪の下に隠れていた更に分厚い筋肉が隆起する。倍近くに膨れ上がった身体が、服を内側から張り裂かんとばかりに押し広げ、今にも破けそうだ。
「気を付けな。風下には―――」
マリコルヌは杖を潰しかねない強さで握り締め―――吠えた。
「物騒なもんが飛んでくるからなッ!!!」
咆哮と共に地面を蹴る。
地中で爆発が起きたかのように土砂が舞い上がった。轟音に混じりマリコルヌの身体が砲弾のように一直線にヨルムンガンドへと迫る。一歩で二十メートルの距離を文字通り踏み越えたマリコルヌ。計算しつくされたかのようにヨルムンガンドの潰れた顔面の前に降り立ち。
「噴―――ッ!!」
マリコルヌの足が地面に触れた瞬間―――大地が震えた。
極地的な地震を起こす程の震脚から生み出された力は、足先から膝、腰、背骨、肩、腕と螺旋を描きながら膨れ上がる。肉体の限界を遥かに越えた力が流れた結果、耐え切れず肉が裂け、血管が千切れ、骨が砕けた。
狂い死ぬ程の痛みがコンマ秒毎に脳に突き刺さる。
足先からミンチにされるかのような痛みに耐えんと噛み締めた歯は既に砕け散っている。
それでも耐える。
一欠片も取りこぼしがないように力を終点へと纏め上げ。
砕け歪みながらも、それでも動く人外の化物を打ち倒さんために、限界を越えた力を発揮し血走った目で睨み付ける。
悲鳴ではなく雄叫びを上げ、マリコルヌは拳を突き出し―――爆発が起きた。
マリコルヌの拳がギムリにより歪んだヨルムンガンドの頭部に打ち込まれた瞬間、莫大量の空気を吹き込まれた風船の如くヨルムンガンドの身体が破裂したのだ。
上空に吹き飛んだヨルムンガンドの砕けた身体が、細かな破片となって周囲へと降り注ぐ。
限界以上の力を行使した結果、反動により壊れた肉体は、全身が血まみれとなったその姿は、誰がどう見ても死体のように見える。崖の上に立つタバサたちが水魔法の使い手を連れマリコルヌの下へ急いで向か
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