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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第九話 巨人殺し
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いるためか、見るものに異様な程に嫌悪感と恐怖を与える。ルイズに迫るヨルムンガンドへ向かって魔法が飛ぶ。しかし、先の攻撃に精神力を使い切ったため、放たれる魔法の密度は先程の攻撃とは比べ物にならないほどに薄い。

「ルイズッ!?」

 切羽詰ったキュルケの悲鳴が響く。
 もはやヨルムンガンドとルイズとの距離は百メートルもない。
 ヨルムンガンドがあと腕を数回動かせば攻撃の間合いに入る。
 誰もが間に合わないと思った―――その時。

 っズ―――ドンッ!!

 二本の巨大な剣が、ヨルムンガンドの両腕の付け根に突き刺さった。肩と腕の繋ぎ目である細い線に正確に突き刺さる身の丈はある青銅製の巨大な剣。二つの内一つは見事にヨルムンガンドの腕を肩から切り離すが、しかしもう一方の腕は未だ肩と繋がったままであった。
 残った最後の腕をルイズへと伸ばすヨルムンガンド。
 指先がルイズに触れ―――

「キャオラッ!!」

 鋭い奇声と共に跳ね上げられる。
 ルイズの背後から走り込んできた炎を纏った人影が指先を蹴り上げたのだ。紅蓮に燃え上がる炎と共に蹴り上げられた人の腕ほどある指は、根元から反り返り―――鈍い音を立てて千切飛んだ。しかし相手は痛覚のない騎士人形。己の指を破壊したレイナールを気にせず腕を伸ばしルイズを捕らえようとする。サイクロプスのような隻眼が勝利を確信したかのように鈍く光り―――歪んだ。
 
「ヅ雄々羅亜アアァァッ!!!」

 ルイズの背後。ルイズの頭上を超えて現れた人影は、独楽のように回転し宙を飛ぶ。両腕を大きく広げ、重く頑強な身体を軽やかとも言える動きで回転しながら、ルイズに伸ばされた腕に沿ってくるくると飛び―――ヨルムンガンドの鼻先にその分厚い掌を叩きつけた。

 ―――バキャッ!!

 鈍く重い破壊音が響く。
 ヨルムンガンドの頑丈な顔が縦に大きく抉られた。
 自分の身体に対するダメージを無視した勢いで振り下ろされたギムリの腕は、頑強なヨルムンガンドの頭部の破壊に成功した。ヨルムンガンドの顔面の破片と共に周囲に広がる衝撃。強風にあおられるようにルイズの身体が吹き飛ばされた。押しつぶされ抉られ焦点が合わないかのように明滅を繰り返すヨルムンガンドの目。ミシミシと音を立て破片を零しながらも、視線がルイズの後を追う。
 その視線が―――止まる。
 歪み、乱れる視界の中―――ソレ(・・)が目に止まったからだ。
 何よりも優先するべきルイズ(獲物)ではないモノから、目が離せない。
 何故―――?
 それは、理性とは別のモノが訴えかけたからだ。
 それは、本能。
 己を破壊(殺す)モノを本能が悟り、理性を制したからだ。
 ソレは、周囲が歪む程の殺意と魔力を放っていた。
 ソレは、丸かった。
 
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