第十四章 水都市の聖女
第九話 巨人殺し
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は、冷静さなど既に大気圏の彼方へと放り投げて逃げ出す四人を追いかけていた。四人の少年は慌ててズボンを履いたせいか、段々とずり落ちていった結果半脱ぎ状態で走っている。宿場街とシェフィールドがいた位置まで数百メートル程度。ヨルムンガンドの足ならば、一分も経たず捕まえられる距離だ。しかし、それも少年たちがただ走っているならば、だが。
「―――ッ!?」
シェフィールドの顔が悔しげに歪む。
眼前、後数秒もあれば捉えられた位置にいた少年たちが宙を飛んだのだ。
「メイジっ!」
シェフィールドが僅かに冷静さを取り戻し掛けたが、
「「「「へっへー、捕まえられるものなら捕まえてみな―――お・ば・さ―――ッぃ!?」」」」
「―――コロス」
怒髪天を通り越して絶対零度まで冷え込んだ怒りに、取り戻しかけた冷静な思考が瞬間冷却されて破壊されてしまった。
地響きを立て十体のヨルムンガンドが短距離の陸上選手のように腕を振りながら走ってくる。現実感の感じられないその光景は、恐ろしさを感じる前に笑いを誘う光景である。巨体に見合わぬ軽快な動きとは裏腹に、その凄まじい音と振動は周囲に響き渡り、局地的な大地震が発生せるほどだ。
完全に冷静さを無くしたシェフィールドは、逃げる四つの尻を目を血散らせながら追いかける。人とは比べ物にならない巨人が走る速度は、例え空を飛んだとしても直ぐにでも追いつかれるだろう速さだ。しかし、命が掛かっているからだろうか、四人の少年の空を飛ぶ速度は尋常ではない。あともう少しの位置にまで迫っていた距離が、じりじりと引き離されていく。捕まえられそうで捕まえられない。シェフィールドは完全に視野狭窄を起こし目の前の獲物しか目に入っていなかった。
追いつきそうになるかと思えば、一気に離され、逃げられたかと思えば追いつきかける。
何時もの冷静なシェフィールドならば何かおかしいと気付く程のあからさまな行動であったが、今のシェフィールドはそんな疑問は全く思い浮かぶことはなかった。ただでさえ最近溜まる一方のストレスの中、任務の遅延が重なり、そこへそろそろ結婚適齢期を過ぎる己を省みては焦りが募るばかりの今日この頃にこの仕打ちだ。
もはや血をみるまで収まるまい。
子供が見れば悲鳴を上げる前にショック死する程のシェフィールドの悪鬼の形相。それに追いかけられるギーシュたちの心情はまさに猫、否、獅子に追いかけられる鼠であった。力を振り絞り、自己の限界を越えた速度で飛翔するギーシュたちであったが、時折騎士人形から放たれる大砲―――葡萄弾と呼ばれる一発で広範囲に小さな弾をバラまく散弾の一種を全て避ける事は不可能であった。騎士人形が大砲を放つ度に、彼らの身体には浅くない傷が刻まれていく。肉を抉り穿つ痛みに耐えながら、血を振
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