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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第九話 巨人殺し
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「…………おかしい」

 黒色火薬の匂いが漂う中、女の疑念に満ちた声が響く。
 “虎街道”に唯一存在する宿場町。戦争が始まり無人となったそこに、十体の巨大なゴーレム―――“ヨルムンガンド”が円陣を組むようにして立っていた。その中の一体の肩の上に立つシェフィールドは、目にはめた薄い青色をした“モノクル”を苛立たしげに弄っている。シェフィールドが目にはめているモノクルは、唯のモノクロ等ではなく魔道具であった。それも、彼女が従える十体のヨルムンガンドの視界が映し出される重要なものだ。ヨルムンガンドのコントローラーと言っても良いだろう。そんな大切なものを今にも壊しかねない様子で握り締めながら、シェフィールドは後ろを振り仰いだ。 

「何故、来ない?」

 シェフィールドが降下してから一時間が経過していた。その間シェフィールドは少なくない戦闘を行っていた。十体のヨルムンガンドに勝てるような相手は存在せず、一方的に蹂躙しただけに終わったが、それでも装備は戦闘を経る毎に消費する。基本的にヨルムンガンドの装備は二つ。“剣”と“大砲”だ。剣だけで敵を全滅させることは容易いが、どうしてもその間に少なくない攻撃を受けてしまう。ヨルムンガンドは全身に先住魔法の“反射”が掛けられてはいるため、大抵の攻撃を受けてもビクともしない、が、無敵でもない。ダメージが蓄積すれば、“反射”が切れ何時か破壊されてしまう。そのため、攻撃を受ける前に効率的に敵を殲滅する必要があり、その手段として剣よりも大砲の方に軍配が上がったのは必然であった。
 既に十体のヨルムンガンドが装備していた大砲の弾は切れている。飛ばす弾がなければ大砲は唯のデカイ筒でしかない。
 砲弾が切れた場合は補給の船が降下し補給を行う事になっていたのだが、先程からどれだけ待てども一隻の船も降りてこない。遠くから砲撃の音が聞こえてきたことから、ロマリアの艦隊との戦闘が始まったのだろうが、ヨルムンガンドへの補給は最優先命令である。一隻の船も降りてこないというのは流石におかしい。上はともかく下は今回の戦争について疑問や拒否を示す者たちが多いのは分かっている。しかし、そうであっても両用艦隊はロマリア艦隊の三倍の数だ。一隻の船が抜け出せない筈がない。

「問題は弾よりも“風石”ね」

 シェフィールドは焦っていた。だが、焦っているのは弾の補給の目処が付かないからではない。それ以上に逼迫した理由があるからだ。
 それが“風石”である。
 何故ならばその“風石”こそがエルフと共に作り上げた驚異の魔導兵器“ヨルムンガンド”がその頑強さの元である甲冑を身につけながら身軽に動くための燃料であるからだ。それが切れれば身動き一つ取れなくなってしまう。いくら頑丈であっても動けなければ唯の的である。まだ後二、三戦は問題ないが、それ
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