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片目の老人
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第一章

                        片目の老人
 シグナルの前にだ。一人の老人がいた。
 舟に乗りだ。これから出ようとする彼の前にふといたのだ。見ればだ。
 大きな縁のある帽子を被っていてだ。黒く、身体が完全に隠れる服を着ている。そしてその右手には槍を持っている。随分と古い槍だ。
 顔は幸の如き髭が生えそれが胸まで伸びている。顔立ちは険しい。異様と言えば異様な姿である。
 その老人はだ。シグナルに対してだ。自分からこう言ってきた。
「済まないがだ」
「何だい?一体」
 シグナルもだ。その老人に言葉を返す。何なのかというのだ。
「舟に乗せて欲しいのかい?」
「何処に行くのかな、舟は」
 老人が尋ねるのはこのことだった。
「一体何処に」
「大した場所じゃないさ」
 シグナルは老人にこう答えた。そしてだ。
 その場所が何処かをだ。それも話すのだった。
「あれだよ。向こう岸だよ」
「あそこまでか」
「そうさ、全然大した距離じゃないだろ」
 こう老人に話す。実際に向こう岸を指差してみせる。老人もそれに合わせてだ。その向こう岸にだ。顔をやって見るのだった。
 見ればだ。はっきりと見える。本当に大した距離ではない。
 そこを指し示してだ。また言うシグナルだった。
「向こう岸にな。用があるんだよ」
「そうなのか、用があるのか」
「戦いがあってな」
 ここでだ。シグナルのその目が鋭くなる。その青い目がだ。
「それでな」
「そこに行くのだな」
「そうさ。あんたは何の用で向こう岸に行くんだい?」
 シグナルは老人にその用を尋ねた。
「旅でもしてるのかい?」
「まあそんなところだな」
 老人の言葉はここではぼやかしたようなものになっていた。
「それで向こう岸に行く」
「そうなのかい」
「あんたとは違った理由だが。それでも」
「それでも?」
「似たような理由だろうな」
 笑ってだ。こうシグナルに言うのだった。
 しかしその笑みはだ。シグナルが見たところ。
 企むものだった。そして何かを期待して楽しんでいるような。そうした笑みだった。
 その笑みを見てだ。シグナルは本能的にこの老人がだ。何やら物騒な老人だと悟った。しかしそれを察してかいないか。老人はだ。
 彼に対してだ。さらに言ってきたのだった。
「それでどうしてくれるのかな」
「向こう岸まで連れて行って欲しいんだな」
「そうだ。どうしてくれるのかな」
 こうだ。シグナルに対して問うのである。
「それは」
「俺は自分で言うのも何だがな」
「うむ。どうだというのだ?」
「ケチな男じゃない」
 それを言うのだった。
「だからな。あんたを向こう岸まで連れて行くのもな」
「そうしてくれるのだな」
「ああ。渡し
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