曖昧な心地よさに満たされて
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詠の泣き声が少し静かになるまで、華琳は雛里を腕に抱きながらご機嫌であった。
「朔夜の時みたいに嫉妬しないのはどうして?」
ただ待ってるのもなんだからと、耳元で暇つぶしに他愛ないことを尋ねてみる程に。
「あわわ……しょれは……」
「知らない子にあの場所を取られるのが嫌だった?」
「ぅ、うぅ……」
「どうせだから話しておくけど、朔夜はしょっちゅう秋斗にくっついてたわよ?」
「っ!」
「風が言うには初対面の時点であの場所を自分のモノにしたんですって。膝に座ってるのなんか五日に一度は見るくらい、なんて耳に挟んでもいる」
「そ、そんな……」
「ふふ、これからはちゃんと自分の場所を自分で守りなさいな。わがままだって言っていい、バカにつける薬は本来無いモノだけど、あの大バカ者には丁度いい薬になるのだから……ね?」
小さな声で朔夜に聞こえないように行われる内緒の話。
雛里が無駄なことをしてきたとは華琳も言わない。其処にあった想いは確かに誰かの為だったのだから、咎めることなどするつもりはなかった。
――盗み聞きするつもりはねぇんだが……これからは周りの目とか考えないとなぁ。
強化されている身体能力のおかげで耳が良くなっている秋斗は、聞こえていても聞こえない振り。
月と二人で街の散策をしたり、詠と口げんかをしたり、朔夜を膝に乗せて知識の幅を広げたりと……思い返せば噂が立ってもおかしくない状況である。
記憶を失っているから雛里と二人きりでどうなるわけにも行かなくて、正直な所、彼女達に対してどう対応していいか困っていた。
関わらないわけにもいかないし、かといって深い関係になるつもりもない。秋斗が誰かに惚れたなどという事はまだないが、彼女達の心理状況を思えば黒麒麟の記憶がネック過ぎた。
――えーりん、ゆえゆえ、ひなりん……夕もそうだったらしいし、黒麒麟ってのは明の言う通り女たらしなわけだ。俺はまぁ、これから女の子にあんまり近づかなかったら大丈夫だろ。
黒麒麟に想いを寄せているのは知っている……が、“今の自分”が想いを寄せられる可能性など考えない。其処に苛立たれている事に気付いていない彼は、やはり何処かしら鈍感であった。
そんな何処か的外れな思考を行っている秋斗の腕の中、詠はどうにか涙を落ち着かせていった。
ただ、ぐしぐしと袖で涙を拭うも、恥ずかしすぎてどうしたらいいか分からないらしく俯いたまま。
――どうしよ。なんて言ったらいいんだろう……でも、離れたくないし……。
安心はしている。暖かくて心が歓喜に染まっても居る。認めてしまった自分の心は、秋斗の膝の上から退く事を拒否していた。
雛里と朔夜に叱ったのに、と自分を詰りたくもなる。度し難い欲だとうんざりしてしまう
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