曖昧な心地よさに満たされて
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詠は、自分も同じように秋斗の膝から降りる。
「では雛里、言ってみなさい」
ゆったりと脚を組み、机に両肘を着いた華琳。楽しげな笑みはいつも通り……でありながら、本来の軍議と同じ彼女になり替わる。
すーはーと深呼吸をした雛里は、帽子を頭に乗せて……軍師としての彼女に切り替わる。
「孫呉の行動制限を強いるには、張勲さんを使うのがいいのではないでしょうか?」
この場に居るのは優秀な軍師と、切片さえ与えれば理解出来る程度頭が回る秋斗である。故に彼女は無駄な説明を省き、策だけを提案した。
「……使える?」
「孫呉を知り尽くしているあの人なら、西涼侵攻の時間を多く稼ぐ事が出来ます。一つ目は、孫策さんを首輪付きにする為に打った一手は内部に毒として残っているらしいので、張勲さんが使者として赴くだけで大きな意味を持たせられます。それにもしかしたら末妹をこちらに引き込めるかもしれません」
ほう、と息を付いた華琳が目を細めた。
「……首輪として機能していた末の妹の身柄を手に入れる、か。私に袁家と同じ事をしろと?」
策としては有用だと認めている。だが、華琳としては人質を使う事はしたくない。
あからさまに過ぎる外交結果では、せっかく袁家を悪と断じて滅ぼしたのに線引きまで越えてしまう。
「あちらから望ませるようにすれば問題ないかと。生存を望んでも敵を殺そうとした孫策さんと、怖ろしい処罰を与えたにしろ敵を殺さなかった華琳様を比べると、甘い幻想を胸に抱いている末娘の心情はこちら側に傾きます。ただ、末妹を引き込むのはあくまで付属効果に過ぎません」
「ふむ……人質というよりただの臣従、それならまだマシだわ。つまり毒として残っている孫家の末妹が居るから交渉の手札が増やせるわけね」
「はい。こちらは時間稼ぎだけでいいので、張勲さんを使いに送って示すモノは……孫権さんの処遇です」
雪蓮ではなく蓮華。雛里が打とうとしている一手は次世代の王に対してであった。
軍師三人はなるほどと頷いたが、秋斗は訝しげに口を開いた。
「なんで孫権なんだ?」
「私と劉表の謁見に於いて孫家の反骨心はうやむやにされてる。勝ち逃げをした旧き龍は孫策の罪を問い家の罪も問うたのだけど、孫権は忠心を持っていると僅かに示したのよ。だからその事と孫策軍の袁家撃退報酬を合わせて、孫権に何かを与えてもいい……劉備が徐州牧の任についた時のように、荊州を任せてみるというのもありかもしれない」
華琳の答えに、ああそうか、と一つ零して手をぽんと合わせた。
「主戦力の分散と揚州の内政遅延、か。わざわざ荒れてて反発満載の荊州を孫策ではなく孫権個人に宛がえば、それの支援の為に本拠地の人員も自然と減るってことか。そうなると孫呉は動くにも時間が掛かるから
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