曖昧な心地よさに満たされて
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華琳は知っている。腕の中の少女が、どれだけ一人を憎んでいるか。
「仲良しこよしの甘ったるい理を貫く時は……劉備が再び矛盾を行うということ。それなら私ではなく、黒の主に、と願っている月が……雛里を連れて叩き潰さなければならないのよ。そうでしょう、雛里?」
問いかける声は愛しい我が子を愛でるように紡がれた。
対して雛里は、翡翠の瞳に極寒の冬の如き冷たさを宿した。
「はい。同盟を組ませる暇さえ与えずに、甘い幻想など叶わない現実を突き付けて滅ぼすのがよいかと。自分の力だけで戦えないから手を組む、誰かが侵略されそうだから手を貸す……ある意味で当然の事ですが、それが出来ない場合をあの人は一度経験しているんですから、また繰り返す時は成長が無いという事です」
幼くとも冷気を漂わせる声音に、僅かだけ悲哀が混じった。
「いえ……違いますね。あの交渉の時よりも酷くなります。あの時のあの人は自分の治める国と利益を考えてました。
でも孫呉と無条件同盟を結ぶ場合は、他の国にも同盟での終焉を望むのですから、“国益”という意識を持てない人が治める国に未来は無いです。あの人が良くても、対価を支払うのは……必死で生きている人達と、先の世に生きる子供達。そんな国を、王を……許せるわけないです」
そんな可能性もある、という話。
普通の王なら有り得ないことも、桃香は選ぶことがある、と。
「黒麒麟と私が求めた平穏の世は、彼女の幻想の先には有り得ません。だから私が引導を渡します。例えあなたが……その時にまだ戻っていなくても」
雛里はもう桃香を信じていないから、つらつらと語った。秋斗を見つめる眼差しは深淵の底のように昏かった。
彼の代わりというわけではなく、黒麒麟と並び立っていた鳳凰だけが持つ戦う理由。彼女が信じる理想の世界は、桃香が描く未来には……無い。
――あの人の理想は幻想になった。例え私が抗わなくても、長い時間を置けば現在の漢のように内部から腐敗して多くの人が先の世界で死んでいく。そうしてまた大きな乱世が起こって世界は繰り返すだけになる。あの人と私と月ちゃんと詠さんと徐晃隊が戦ってきた想いは、そんな世界を作らない為。故に、偽りの大徳である劉玄徳が幻想を説き続けるその時は……私の羽根で薙ぎ払おう。
ゆっくりと蒼髪を撫でつけて、華琳は優しく微笑んだ。
「……と、いうことよ。分かった? 秋斗」
「ああ……すまん。ひなりんも、ごめんな」
「あわわ……か、構いません」
雛里が何を言いたいのかを明確に感じ取った彼は目を伏せて謝罪を一つ。
思わず帽子を下げようとしたが外されている事に気付き、恥ずかしくてまた俯く。
「ふふっ、まあ、公孫賛が居るから確率的にはほぼゼロ。公孫賛は甘さもあるけれど
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