曖昧な心地よさに満たされて
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ある以上は、才が華琳にとって利するなら受け入れざるを得ない。
華琳は世界に嘘を付いている。乱世の引き金となった黄巾党の主格を、名を隠す事によって自分のモノとしたのだ。
乱世を越えて行く力を得る為の判断であって同情で助けたわけではない。罪には罰をと裁く華琳としても異例中の異例であるが、利と効率を重視して天秤を三人の才に傾けた。
――ねぇ、黒麒麟。私も大嘘つきなのよ? 作り出したい平穏な世の為には、大嘘の一つくらいつかないとダメだもの。
目を瞑り、内心でまだ戻ってこない嘗ての敵に言ってみる。
ある意味で、彼女は秋斗と同等の自責を背負っているのだ。大陸で一番の悪は自分以外にいない、と。
怨嗟を宿した人々に責められるのも覚悟の上。真実を知れば誰もが華琳を嘘つきと責めるだろう。黄巾の乱で奪われた命と、その悲しみに震えモノは星の数程に居るのだから。
それでも作りたい世界があった。其処もほとんど同じ。だから美羽の事は本来直ぐにでも頷ける……が、今回の事で一つ問題があるとすれば……美羽を七乃に対する人質として扱う事を是と出来るかどうか。
「あ……華琳様」
黙っている華琳に、ハッと気づいた朔夜が声を掛けた。
目線が絡む。藍色の瞳に知性が渦巻いていた。
「袁術が、娘娘の給仕になったのなら人質扱いは有り得ません」
「どういうこと?」
「てんちょーは、今回の事で怒ってると思いますから……袁術は性根から、叩きなおされていくでしょう。“我らが主人は食事を楽しむ全てのお方。料理は愛情、皆に笑顔を”……です」
「……さすがにそれだけでは分からないわ」
続けて説明されても、やはりわけが分からず首を捻った。
「図らずとも、華琳様と秋兄様が袁麗羽に強いたモノと似たような事をしている、ということです。それに白馬義従並かそれ以上、幽州を大切にもしていましたし、利益を計算する時のてんちょーの頭脳はそこらの文官よりも上で、人の心の機微にも聡い。華琳様の矜持を、計算に居れてもいるでしょう。てんちょーを、信頼して頂くしかありませんが……袁術は娘娘に自分から望んで仕える事になります。袁術が居る限り、張勲は華琳様の元を離れる事は有り得ないので、問題はないかと」
華琳としても、店長の人となりも矜持も信頼してはいる。
分野は違えど大陸制覇を目指す同志で、利害関係が一致している同盟相手でもある。
そこで思い出したのは、一つ。
――給仕に手を出したら約定違反……袁術が給仕である限り私も手は出せない。公で死んだとされて、そこからさらに政治の道具にするなら……頑固者の店長が私の元から離れるのは間違いない。さすがに店長を失うのは民の反感が大きすぎる。商業分野にしろ豪族の支援にしろ、娘娘の支持は欠かせない要因になってるのだから。
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