曖昧な心地よさに満たされて
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のも詮無きかな。
悩んだ末に降りようと決めて、秋斗と目を合わせずに口を開く。
「もう、大丈夫だから」
「却下。そのままでいなさい、詠」
「な、なななんでよ?」
「そんなの秋斗の困る顔が面白いからに決まってるじゃない」
華琳にそう言われて少しだけ、秋斗の顔を見やった。
意識が向けば目が合うのは当然。秋斗は無自覚の上目使いをされて……目が泳ぐ。
ズレた眼鏡からの上目使いは破壊力抜群の攻撃であろう。それも泣いた後である。潤んだ瞳も赤くなった瞼も、男を落とすには十分の力を秘めている。ただでさえツンデレに定評のある詠の不意打ちな仕草に、鈍感な彼であれど普通の男と同じく鼓動が跳ねないはずがない。
ぐ、と言葉に詰まった彼はなんとも言えない表情をしてから視線を逸らした。
「……ちょっとごめんよ」
「ひゃん!?」
すぐさま抱きかかえてくるりと反転させる。
――狙ってやがったな、華琳め。
跳ねる心臓をそのまま、憎らしげに華琳を睨みつける秋斗。得意げな表情で口を動かす彼女は、へたれ、と声に出さずに秋斗を詰る。
一応、まだ詠が落ち着いていない事も考慮して膝の上からは降ろさなかった。まあ、降ろそうとしても華琳が何かを行って来るのが目に見えていたからでもあったが。
対面に向かい合っている事で詠の視線が雛里と絡む。羨ましげに見つめるその視線に、また恥ずかしくて真っ赤に顔を染めて俯いてしまった。
「とにかくだ……えーりん、名前は荀攸でいいか?」
「ぅぇあっ!? い、いいわよ!」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
「いきなりこんな近くで話し掛けるからじゃないっ」
「お、おう。すまん」
恥ずかしいなら降りればいいのに、と思うも言えない。腰に回した腕の袖を掴んでいるのは詠本人で、放される気配はなかった。
朔夜がむくれているが、しかし詠に譲るつもりであるらしく咎めることはなかった。
「じゃあ、次の話に移ろうか」
両者が膝の上に軍師を乗せるおかしな場ではあっても、せめてと真剣な声音を装った。
「あなたばかり話すのはつまらないわ。私に当てさせなさい」
そんな彼に、不敵な笑みを浮かべた華琳が言って退ける。
ため息が一つ。相変わらずやりにくい覇王様だ、と口の中でだけ呟いた。
「……分かった」
「ふふ、あなたが考えてる事は……そうね……」
雛里を抱き締めながら、宙に視線を彷徨わせて思考に潜ること幾瞬。ぺろりと唇を一舐めしてから彼女は予想を語り始めた。
「詠と一緒に、劉備の所に向かうつもりじゃないかしら? それも帰還してすぐ。劉備が蜀の地を掌握する前に内情を真正面から判別し、記憶を失った事による心情攪乱を打ちつつ、出来るなら劉璋に対して餌を与えて劉家を
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