第三話 痴話喧嘩
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川!今だかーっとばせよ!!水戸川!今だかーっとばせよ!!」」」
内野席からの野球部員の声援に送られて、左打席に中背の少年が向かった。ネクストからは、こちらは大柄な主将の内田が、少年に声をかける。
「水戸川!俺に回せ!」
その言葉に、少年はネクストを振り返り、ニッと笑った。
「もちろん。ちゃんと準備しといて下さい」
水戸川の身長は173cm。けして大きくはないが、左打席でボールを待つ構えは腰が座り、懐が大きい。
カーーーン!
ボールを手元まで引きつけて打ち抜いたその打球は恐ろしく速く、右中間を真っ二つに切り裂いていく。走者がホームに帰り、打った水戸川は俊足を飛ばして悠々二塁へ到達した。
「……おいおい、あんまり打つと四番の俺の立場が無いぞ」
目の前でその打撃を見た内田は苦笑いでつぶやいた。
「さすが水戸川さんだぁ〜。5回戦でもうヒット10本目だよ」
「内田さんより最近目立ってるよなぁ」
春季大会は内野席から先輩方を応援している脇本と修斗。いつも喧嘩しながらでもずっと一緒なのは、やはり仲が良いと言うべきか。
「早く試合に出たい」
同じくベンチ外の佐田は、早くもウズウズしてきているようで、貪欲さを窺わせる。一年生で春の大会ベンチ入りはなし。まだまだこれからとはいえ、そうそうノンビリと構えてられないのが高校生というものだ。
(……ん?)
グランドを見つめる修斗と、目が合った選手が居た。といっても、試合に出ている選手ではない。水戸川の防具を引き取りにベンチから出て行った控え選手だ。背番号は20がついている。
その背番号20番は、友永広樹その人だった。
「……」ビッ
(は、はぁ?)
広樹は修斗とバッチリ目を合わせた後、中指を立て、そしてすぐにベンチに引っ込んでいく。
「ん?どうした?」
「いや、今友永さんにファックされたんだけど」
怪訝な顔をしている修斗に脇本が尋ね、その答えを聞いて脇本は不思議な顔をした。
「え?お前友永さんと絡みあんの?」
「いや、まぁ、ちょっと。で、何か目の敵にされてそうなんだが…」
脇本はメシウマとでも言いたげな嫌な顔をした。
「あの人陰険そうだからな〜。苦労するぜ、きっと」
「おい、やめろよ。縁起でもない」
修斗は脇本の頭をメガホンで叩き、それに怒った脇本が、またいつものように喧嘩がおっぱじまった。
季節は四月。時は過ぎてゆく。
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