ヒトランダム
〈ふうせんかずら〉
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「待って、太一。ここはあたしに、任せて」
桐山がそう言って八重樫のゆく手を遮った。
確かに、ただ物理的攻撃手段に頼るだけなら中学の時に空手で神童とまで呼ばれた桐山の方が適任だ。
だが、なぜだろう。そういう桐山の声は少し震えていた気がした。
桐山は一息入れると、後藤先生に謝りながら〈ふうせんかずら〉に蹴りを入れた――ように見えたがその蹴りはきっちりと腕で防御されていた。
防がれたことに驚きながらも桐山は連続して体の中心を目がけた拳を繰り出すが、〈ふうせんかずら〉は体を少しずらすだけで回避した。そしてそのまま突き出された拳をつかみ、桐山が拳を突き出した勢いを利用して投げ出した。
投げ出された桐山をちらりと見た後、もう襲い掛かってこないと判断したのか俺たちの方に向き直った。
その視線に思わず誰もが動けなくなる。
これで、すべて終わったと判断したのか、じゃあ、と一言だけ声をかけると〈ふうせんかずら〉は去っていった。
〈ふうせんかずら〉の足音が聞こえなくなるまで豪雨が過ぎ去った後のような静けさが部室を包み込んでいた。
〈ふうせんかずら〉が去って行った後、俺たちはしばらく放心状態にあった。ちなみにその放心状態が解けた後、永瀬が職員室にいるであろう後藤先生を訪ねに行ったのだが何のヒントも得られなかったらしい。
そして、部室でいくらかこの現象に関して話し合ったもののみんな混乱しているのか一向に話はまとまらず結局下校時間でお開きとなった。
「あー、まったくもう!いったい何なんだこのトンデモ現象は!」
帰り道六人そろって駅まで向かっている最中、稲葉が急に叫んだ。
普段なら最も頼りになるはずの稲葉がこの様子ではどうにかなるものもどうにかならなくなるかもしれない。
「落ち着け稲葉。冷静に考えよう」
すーはーと数回深呼吸する稲葉。
「……そうだな。あまり意識しすぎるのもよくないか。かえって奴の思惑にはまる可能性だってあるわけだしな」
落ち着きを取り戻した稲葉はさすがであった。
「今後人格入れ替わりが起きた場合、可能な限り連絡を取り合い状況を確認すること、なるべく人目を避ける、他人と接触するときはなるべく本人になりきる、この辺りを徹底していこう」
みんなで最小限の対策を共有する。それを最後にこの話は終わったかのようにいつもの日常的会話に戻った。
家に帰りつくとただいまとだけ言い、返事を待たずに二階の自室にこもる。
時間は午後六時半、夕食まではまだしばらく時間はある。今日のことは脇に置いておいて、とりあえずさっさと着替えてと課題だけでも終わらせてしまおうかと考えた。
鞄の中から課題を取り出し、さて始めようかと思ったその時、視界が暗転した。
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